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スカウト予算はユベントスの5倍以上!
育成王国ウディネーゼの異端戦略。
posted2015/12/02 10:40
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
AFLO
ウディネーゼの名を出せば、選手でも経営者でも、スカウト先の交渉相手はまず食いついてくる。南米やアフリカの小さなクラブの間でも、イタリアの北都は、“欧州ビッグクラブへの玄関口”として定着した。
何しろ、ウディネーゼの“輩出実績”は抜群だ。
FWサンチェス(バルセロナ→アーセナル)やDFベナティア(ローマ→バイエルン)がCLで活躍しているだけでなく、MFクアドラド(フィオレンティーナ→チェルシー→ユベントス)とGKハンダノビッチ(インテル)はセリエA上位争いの渦中にある。
彼らは皆、ウディネーゼの門下生として、北部フリウリ地方を経由して晴れ舞台へ旅立っていった。今やウディネーゼは、イタリア屈指の“育成王国”としての地位を確固たるものにしている。
ウディネーゼのビジネスモデルはシンプルだ。
無名でローコストの原石を探し当て、セリエAの実戦を通してピカピカに磨き上げた若手選手を、高値でトップクラブに売却する。
ただし“言うは易く行うは難し”で、ウディネーゼ以外の成功例は少ない。
ユベントスをはるかに上回るスカウト体制。
多くのクラブが同じ皮算用を試み、次々に失敗していく中で、ウディネーゼだけが黒字を計上し続ける。彼らの錬金術を可能にするのは、執念じみた選手発掘のスカウト体制と突出した予算だ。
昨季、ウディネーゼは選手発掘のためのスカウトを世界中で15人雇った。セリエA全クラブを合わせたスカウト数は約120人とされ、王者ユベントスですら11人に留まる。
経費も当然かかるが、ウディネーゼが費やす予算700万ユーロに追随するクラブはない。次点のユベントスですら、スカウトにかける予算額はその5分の1以下なのだ。
大量動画データベースでの情報収集がスカウティングのメインワークになりつつある今、ウディネーゼは、何の収穫もないと半ばわかっていても、対象の選手を直に見るために、ブルガリやハンガリーの無名クラブにまで足を延ばすようスカウトに命じる。
東欧の辺境国だけでなく、ガーナを筆頭とするアフリカ諸国や南米の第三勢力国であるチリやコロンビアにまで張り巡らされた彼らのスカウト網の充実ぶりは、他のクラブと一線を画す。仕入れ先の見極めこそ、“育成王国”のビジネスモデルを支える生命線なのだ。