ブックソムリエ ~新刊ワンショット時評~BACK NUMBER
一匹狼の執念が世界を動かす。~ブラッターFIFA会長を辞職に追い込んだ71歳のジャーナリスト~
text by
幅允孝Yoshitaka Haba
photograph byWataru Sato
posted2015/12/01 07:00
『FIFA 腐敗の全内幕』アンドリュー・ジェニングス著 木村博江訳 文藝春秋 1600円+税
北イングランドの丘陵地にある自宅農場でアンドリュー・ジェニングスの電話が鳴ったのは2015年5月27日早朝。その日はサッカー界に激震が走った日だった。スイスの超高級ホテル、ボーオーラックで眠りこけていたFIFA幹部7人が一斉に逮捕されたのだ。
だが、71歳のベテラン調査報道記者は「もっと寝ていたかったから」という理由で、電話を切ってしまう。「どんな話でも、朝の六時に起きたことなら、昼頃わかったって遅くないだろ?」。それが、この大スキャンダルを暴いた一匹狼のジャーナリストが貫く姿勢だ。ジェニングスは、ゆっくりと几帳面に、そして驚くほど粘り強く、証拠資料を集める男。