フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
羽生結弦、新採点方式で究極の点数へ。
男子フィギュアの劇的進化を振り返る。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto
posted2015/12/01 16:00
「記録だけではなく、自分の演技をさらに超えられるようにしたい」とGPファイナルへの抱負を語っている羽生。
現採点方式によってジャンプの進歩が一時低迷した。
2004年に現在の採点システムが施行されて以来、ジャンプだけではなく、スピンやステップも難易度によってレベル分けされ、それぞれにポイントが定められた。
スケーティング技術も数値となって具体的に評価されるようになり、選手たちに求められるものは以前よりずっと多くなった。
もっとも2006年トリノオリンピック当時は、ISUもジャッジたちも、まだこの新採点システムで試行錯誤していて、この採点方式の影響の大きさはそれほど感じられなかったように思う。
だがフィギュアスケート界に衝撃を与えたのは、2008年世界選手権でジェフリー・バトルが4回転に挑まずしてチャンピオンになったときである。4回転なしの男子世界チャンピオンは、1998年以来実に11年ぶりだったのだ。
4回転か表現力か……の時代を経て。
後に羽生のSPの振付師をしたバトルは、現役時代にはスケーティング、スピン、音楽表現などどこをとっても素晴らしい選手だった。だが4回転だけは苦手で、試合で成功させたことはほとんどなかった。
その一方で、2008年のこの試合で2位のフランスのブライアン・ジュベールは、力強い4回転ジャンパー。だがスケーティングを駆使した繊細な表現や、難易度の高いスピンなどは苦手な選手でもあった。今思い返せば、スケーターとして対照的な2人の実に象徴的な戦いだった。
多くの議論を醸した2010年バンクーバーオリンピックでの戦いは、選手の顔ぶれこそ違ったものの、この2008年世界選手権の戦いの再現に違いなかった。ジャッジは強い4回転ジャンパーよりも、全体のレベルの高い演技を見せた選手を上につけたのである。