フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
羽生結弦、新採点方式で究極の点数へ。
男子フィギュアの劇的進化を振り返る。
posted2015/12/01 16:00
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
Asami Enomoto
言葉を失うような、圧巻の演技だった。
羽生結弦が陰陽師『SEIMEI』のフリーで最後のジャンプ、3ルッツをきれいに着氷した瞬間、会場となった長野のビッグハットの観客から大きな歓声が湧きあがった。
「ありがとうございました」とテレビカメラや観客席に向かい、何度も繰り返す羽生。
この演技なら、間違いなく前人未到の300点超えをやってのけるだろう、という確信はあった。それでも総合322.40という数字が出たときは、本人も驚きの表情を見せて、両手で顔を覆った。
「フリー200点超え、総合300点超えをしたいという意識はありました」と羽生は演技後に語った。だが自分はそういうプレッシャーを感じていることを自覚し、のまれないように意識したとも言う。
SPのジャンプ構成を最大限まで上げてきた羽生。
いよいよ来るな、という予感があったのは羽生がSPのジャンプ構成を変えてきたとわかったときだった。
これまで4回転トウループを単発で、コンビネーションジャンプはルッツでやっていた羽生が、単発は4回転サルコウにし、4+3のトウループをコンビに持ってきたのである。彼が跳ぶジャンプの中で、最高の難易度の構成だ。
「スケートカナダで、SPとフリーを実際に試合でやって今シーズン2戦目をやっていく感覚として、まだ調整できるなという感じがあった。またエキシビションの練習の際に、(両手両足を開いて横に滑る)イーグルからのサルコウやイーグルからの4回転トウループだとかそういった練習をしてみて、感覚がよかったんです。まあ挑戦という意味も込めてやらせていただきたいと思いました」
コーチのオーサーは少し懸念を示したという、あまりにも野心的なこの構成。だが羽生は、初挑戦でみごとに滑りきった。
2シーズン目となるSP、ショパンの『バラード』は昨シーズンからノーミスで滑りきることが一度もできずに悩まされてきたプログラムでもあった。だがこの大会で、いきなりSP106.33と自らがソチオリンピックで出した世界ベストスコアを5ポイント近く更新させた。