フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
羽生結弦、新採点方式で究極の点数へ。
男子フィギュアの劇的進化を振り返る。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto
posted2015/12/01 16:00
「記録だけではなく、自分の演技をさらに超えられるようにしたい」とGPファイナルへの抱負を語っている羽生。
果たして、羽生に迫る選手は出現するのか?
今回の羽生が出したフリーの216.07、総合322.40とも、これまで世界最高スコアを持っていたパトリック・チャンの記録を20ポイントほども上回る数字である。
今後羽生がこの演技を安定して繰り返すことができるなら、少なくともスコアに関して彼を脅かすことのできる選手は、今のところほかにいない。羽生の一人勝ちの時代が当分続くことになる。
「このスコアが破られるときが来るとすれば、それは彼自身によってでしょうね」とコーチのオーサーは口にした。羽生が世界に叩きつけたこの記録に迫ってくるのは、本人以外に誰がいるだろう。
この記録は一朝一夕にしてできたものではない。新たな歴史が刻まれるまでに、このスポーツは多くの道のりを経てきたのだ。
男子フィギュア界、新時代の幕開け――。
今回のNHK杯ではSPで12人中10人が4回転を降り、さらにフリーでは羽生と2位のボーヤン・ジンが合計3回、無良崇人ら3人の選手がそれぞれ2回ずつの4回転ジャンプを降りている。
この試合で初めて、国際試合で4回転を成功させたというアメリカのグラント・ホチステインは、「この試合の男子のレベルの高さはクレイジーだ。あり得ないレベル」とコメントした。
わずか数年前のバンクーバーオリンピックで、4回転を跳ばなかったオリンピックチャンピオンが誕生したことが、まるで嘘のようだ。だがそれは、2010年オリンピック金メダリスト、エヴァン・ライサチェックに対する批判ではない。
旧採点システムで育った選手たちは、調整の時間が必要だったのだ。
4回転を跳んだ初の五輪チャンピオンが誕生したのは1998年で、ほかでもないこのNHK杯が開催された長野でのこと。金メダルを手にしたのは、ロシアのイリヤ・クーリックだった。
だが当時の6点満点システムでは、ステップやスピン、そしてスケーティングそのものなど、ジャンプ以外の技術に対する評価が曖昧だった。選手たちはルールで設定された要素さえプログラムに含めば、あとはジャンプに集中することができたのだ。