フットボール“新語録”BACK NUMBER
28歳の超若手監督が巻き起こす、
ホッフェンハイムの蹴球IT革命。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byGetty Images
posted2015/11/02 10:40
来季ホッフェンハイムの監督になるナーゲルスマンはU-19でSAP社の最新分析システムを導入している。
一気にIT化が進んでいったホッフェンハイム。
2013-14シーズンはホッフェンハイムU-19の監督になり、ドイツ王者になった。かつてトゥヘルがマインツU-19監督時代に手にしたタイトルである。2014-15シーズンは優勝を逃したものの、ファイナルに進出した。
この期間、ナーゲルスマンにはもうひとつ重要なミッションが課されていた。それはSAP社が開発する最新の分析システムをU-19の練習でテストすることだ。
ホッフェンハイムは、1990年にSAP創業者のひとりであるディトマール・ホップが実質的なオーナーになって以来、IT色が強いクラブになっている。8部から少しずつカテゴリーを上げ、2006年にラングニック(現RBライプツィヒ監督)を招聘したのをきっかけに、ベンチャー企業のように新しい試みに挑戦してきた。
フィットネストレーナーのライナー・シュレイ(現ドルトムント)の監修でアメリカ式のフィジカルトレーニングを行える環境を整え、地域貢献のために教育に力を入れたアカデミーを建設。そして約2年前、SAP社とともに、サッカーの分析に本気で挑み始めた。
まるで『ドラゴンボール』のスカウター!?
FIFAの規定により、試合中に選手たちに通信デバイスをつけることは禁止されているが、練習では制限はない。そこでフラウンホーファー研究機構の力を借り、選手に無線機器をつけ、練習場に測定機を設置した。これによって選手やボールの位置だけでなく、高さまで測定することが可能になった。
走行距離、スプリント数、最大速度、パス成功率、タッチ数、ボール奪取数、ボール奪取から得点までの秒数といった基本情報を、リアルタイムで表示。グーグルグラスをかければ、まるで漫画『ドラゴンボール』のスカウターのように、選手のデータを見ることができる。
2D映像だけでなく、人工の3D映像が生成され、たとえば味方がパスを出そうとしているのに敵の背後に隠れてしまっていたら、「隠れている秒数」がカウントされる。パスコースに顔を出すのをさぼっていたら、すぐにバレてしまうのだ。
2013年に同技術が公開されたとき、SAP社は「トレーニング革命を起こす」と夢を語った。データの力が、ナーゲルスマンのU-19優勝にも大きな後押しになったに違いない。
しかし、あくまでU-19での実験であり、常に結果が求められるトップチームでは導入しづらいという現実があった。前監督のギスドルは46歳の戦術家だったが、それでも練習を数字で管理することに抵抗感を示し、最先端のITに頼ろうとはしなかった。