サムライブルーの原材料BACK NUMBER
宇佐美貴史を成長させる2人の監督。
“お子ちゃま”発言から4日後の意地。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/10/13 10:30
原口元気に左ウイングのスタメンを奪われたかたちの宇佐美だが、2点に絡み勝利に大きく貢献した。
チームが苦しい時に勝利に導いてこそエース。
かなり厳しい表現である。
まだまだ分かっていないと、指揮官は言いたかったのだろうか。
広州では酷暑、高い湿度にも苦しめられて1-2と落とした。脱水症状で嘔吐した選手や試合後に食事を満足に取れない選手もいたという。中3日とはいえ、アウェーマッチでの激闘による影響が少なからず残っていた。
しかしながら川崎戦は、リーグ2連覇を狙う意味で落とせない重要な一戦。第2ステージ優勝、そして年間順位3位以内に滑り込むためにも、絶対に勝たなければならなかった。
守備で助けられず、攻撃でもゴールに絡めなかった。
チームが苦しいときに助けられてこそ、勝利に導いてこそのエース。
それでも長谷川は、本来の動きに戻らない宇佐美を最後までピッチに立たせている。この状況でチームを勝利に導いてみろ、というメッセージとも受け取れた。
「敢えて“お子ちゃま”と言ったんです」
お子ちゃま。
会見の席であのように厳しい言い回しを使ったのがどうしても気になって、帰り際に声をかけた。
「敢えて“お子ちゃま”と会見で言ったんです」
指揮官は一言、こう返した。
現役時代にストライカーの宿命を背負ってきた立場。清水エスパルス監督時代には新人の岡崎慎司を育て上げている。エースとは何か、エースの重みとは何か。今季リーグ2位の19ゴールを挙げているとはいえ、宇佐美にあらためてそのことを伝えたかったのだと、筆者は解釈した。
長谷川のみならず、同じくストライカー出身のヴァイッド・ハリルホジッチも、宇佐美を厳しくも温かく見守っている。体脂肪率の厳守などいろいろと指摘しながらも、メンバーのなかでただ一人全試合に出場させていることが何より期待の表れだ。