球道雑記BACK NUMBER
周囲の人が口々に「大人になった」。
涌井秀章がロッテで取り戻したもの。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/09/25 11:40
9敗目となった試合でも、6回7安打2失点とQSを守っていた涌井。
「(涌井は)まだ進化していると思いますよ」
さらに大迫コーチは続ける。
「(涌井は)まだ進化していると思いますよ。スピードとかそういうことではなく人間として成長していると思う。だから投球自体も良くなっているでしょう。結果(数字)が良ければ、周りももっと違う目で見てくる。そしたらもっと良くなってくると思うんです。たとえば今、10勝していたとして、それが10勝2敗か3敗だったら、もっと周りの目も違ってくるでしょう。でも今季は9敗しているからほとんど五分の状態。これを勝ち越して、さらに増やしていけるかどうかの問題。そこが上がってこないと自分のテンションも上がらないですよ。人間だもん。
ギアはいつも入っているけど見た目には入っていないように見える。あいつは日本人独特のポーカーフェイスみたいなところがあるじゃないですか。でも、そのときが来たら必ず上げてくると思います。これまでだって1つの試合のなかで必ずそういうシーンがあったでしょう?」
菊池雄星相手に凄みを感じさせた圧巻の投球。
9月13日、西武プリンスドーム。
黒に染まった一塁側スタンドから耳をつんざくほどの選手コールがマウンドに立つ彼の背中に注がれた。
「わくい! わくい!」
この声援にまるで後押しされたかのように彼が投じた初球の真ん中高めのストレートは、146キロを計測し、この日史上6人目のシーズン200本安打を達成した秋山翔吾のバットに空を切らせた。
「(燃えるものが)ないと言ったら嘘になりますけど、こういう大事な試合を任されたというのは分かっているし、期待にしっかりは応えられてないかもしれないですけど、これからあと3、4試合投げると思うので、そこでそれなりに期待に応えられればなと思っています」(涌井)
CS進出をかけたライバル埼玉西武との直接対決に、千葉ロッテ・伊東勤監督はあえて中8日でこの日のマウンドを託した。
相手投手は前回対戦で味方打線を完璧に封じ込んだ菊池雄星。その大一番で試合終盤、菊池にプレッシャーをかけ続け、ミスを誘発させた涌井のこの日の投球は、沢村賞を獲った'09年と比べても遜色がないくらい「凄み」を感じさせたものだった。