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湘南が育てた「1億円の日本代表」。
大倉社長が語るクラブ規模と育成。 

text by

並木裕太

並木裕太Yuta Namiki

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2015/09/30 10:50

湘南が育てた「1億円の日本代表」。大倉社長が語るクラブ規模と育成。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

A代表にも「定着」したといえる遠藤航。武器は万能性、というなんとも老練な選手だ。

「早生まれ」は世代別代表選考で有利!?

――小さいクラブならではのメリットもある、と。

大倉 実際問題として、設備面では多少は違いがあるかもしれませんが、指導者のレベルに大きな差があるとは思えません。マリノスとベルマーレで言えば、マリノスの方が選手本人や親に選ばれやすいのはイメージの差が大きいでしょう。ただそれも、ベルマーレのトップチームがJ1でしっかり戦えるようになったことで差はなくなりつつある。むしろ、指導者の目が行き届いて上下の組織に垣根がなく、プロになりやすいというのは私たちの売りになっています。

 遠藤だけでなく、現在トップチームで頑張っている菊池大介や古林将太なども下部組織からの昇格組ですが、やはり高1のころから粘り強く使い続けたことで成長した選手たちで、アンダー世代の代表にも選ばれていました。

 そうした中で遠藤がA代表にも選ばれるほど伸びてこれた要因としては、「早生まれであること」が挙げられます(遠藤は2月生まれ)。サッカーの世代別代表は4月を基準とした学年ではなく1月1日以降の生まれで区切られます。

 例えばU-16なら高1が中心になりますが、早生まれであれば高2でもメンバー入りが可能なわけです。学年が1つ上で経験値が高く、身体的成長度の面でも優位性がある早生まれの選手は、各世代の代表監督が欲しがる存在。育成の現場でも、いい選手の情報が入ってくると「早生まれかどうか」を真っ先に確認しますしね。そうしたメリットを生かして常に世代別の代表に選ばれてきたことは、遠藤の成長を強く促したと思います。

「伸びる選手」の目利きが何よりも大事。

――いい選手を育てるのに、クラブの大小はあまり関係ないのかもしれない。

大倉 基本的に、選手を獲るのにお金はかかりませんから。その意味ではクラブの規模は関係ないと言えます。何より大事なのはまず、「この選手は伸びるのか、伸びないのか」の目利き。中村俊輔(マリノスのユースに昇格できず)も本田圭佑(ガンバのユースに昇格できず)も長友佑都(愛媛FCジュニアユースのセレクションに不合格)も、当時の担当者はその将来性を見抜けなかったわけです。U-14の日本代表に選ばれても、プロになれるのは2割しかいないというデータも耳にしたことがあります。それくらい、早い段階で選手のポテンシャルを見極めることは難しい。

 あとはもちろん指導力。曹さんの眼力とぶれない指導方針があったからこそ、スピードも力強さもなかった遠藤が、体が大きくなるにつれてしっかりとプレーできるようになっていった。どの選手も獲得してから育成してトップチームで出られるようになるまでに7~8年はかかります。お金のあるなしではなく、地道に当たり前のことを続けられるかどうかが育成のカギなのではないでしょうか。

【次ページ】 才能に巡り会える可能性はどのクラブも平等。

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