マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
U-18W杯で見えた、球児たちの本質。
清宮、勝俣、平沢、オコエの“核”。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2015/09/11 10:50
部活という枠を出たことで、選手達の新たな側面が見られたU-18W杯。甲子園とはまた違った魅力を見せてくれた。
何かを起こしてやる、というパッション。
甲子園大会でのオコエは、そのスピードでわれわれの目を奪った。
三塁打にするそのベースランニングの速いこと、速いこと。とりわけ、二塁を回ってからのスピードはいったいなんだ!
4歩走って、そこからスライディングして余裕でセーフ。そんなふうにしか見えなかった。40年以上甲子園の高校野球を見ていて、ダイヤモンドがこんなに小さく見えた選手も、彼が初めてだった。
その飛び抜けたスピードに奇跡を信じるロマンを乗せて、U-18のオコエ瑠偉はもう一度、ダイヤモンドを支配してみせた。
彼と同じぐらいのスピードを持った高校生がいないわけではない。しかし、そのスピードであり得ないことを惹き起こしてやるという意欲を持った韋駄天は、惜しいことになかなかいない。
50m6秒そこそこの俊足を持っていながら、内野ゴロで走るのをやめてしまうのは何故か。
正面に飛んだ、もうダメだ……。そんな“計算”が思いを一気にしぼませる。
何かを起こしてやる!
それは、奇跡、つまり夢を信じる者だけが生み出す特別なパッションだ。計算から生まれるエネルギーは小さく、夢が生み出すエネルギーには際限がない。
伸びる選手の条件を、オコエに教えられた。
気がついたことがある。
これまで、数え切れないほど問われてきて、そのたびにもっともらしい答えを返しながら、ほんとは違うよなぁ…そんな悶々とした思いにとらわれていた難解な命題。
将来伸びていく選手って、どんな選手なんですか?
その答えが見えた。すなわち、ロマンチストであること。
ここでもうひと踏ん張りすれば、もっと上手くなれるのではないか。
疲れた、もう嫌だ、やめてしまおうか……これ以上やっても同じじゃないか……。
その時に、この先に何かいい事があるんじゃないかと前を向ける選手なのか、やってもダメだからとタカをくくって足を止めてしまう選手なのか。
なかば暴走とも思えるほどのアプローチで、痛快なほどの奇跡を巻き起こしてしまうオコエ瑠偉のプレーから、この夏、私はとても大切な「人生の答え」ともいえるものを教わったような気がして、私自身も“よい夏”を彼らと共に過ごせたことをうれしく思っている。