マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
U-18W杯で見えた、球児たちの本質。
清宮、勝俣、平沢、オコエの“核”。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2015/09/11 10:50
部活という枠を出たことで、選手達の新たな側面が見られたU-18W杯。甲子園とはまた違った魅力を見せてくれた。
浮かべていた笑顔が、決勝で消えた。
そのアメリカとの決勝戦。
最初の打席の彼を見て、「変わったぞ……」と胸が躍った。マウンドの投手に視線を合わせる彼の表情から、前歯が消えていた。
スーパーラウンドまでの平沢大河。構えた時の表情は、うす笑いを浮かべているように見えた。キュートな前歯が2本のぞいていた。
笑いながら簡単にヒットを打てるヤツ。
実は、甲子園の時から、すごい! と思ったり、けしからん……とちょっと思ったりしながら、やっぱり結果を出すから感嘆していたものだ。
それが決勝戦の修羅場、土壇場になって、隠し持っていた“本気”をようやく繰り出してきた。そんなふうに見えていた。
オコエ瑠偉には、本当にまいった。
そして、オコエ瑠偉だ。
こいつには、まいった。
ほんとのところ、世界大会の剛球、クセ球には戸惑っていたし、木のバットの感覚にも慣れないうちに大会が終わってしまった。それが現実だったろう。
ヒットはちょこちょこ打ってはいたが、予選や甲子園大会で見せていたライナー性の痛快長打は見られなかった。
なのに、“失望感”がない。オコエ、ダメだったね……そんな落胆はどこからも聞こえてこなかったし、私自身、敢闘賞があったら絶対オコエだ!
へんな確信があった。
オコエ瑠偉がすごいのは、そのスピードや駆け回るタイムじゃない。持ち前のスピードで何かを起こそうとする姿勢であり、その意欲である。
オレが全力疾走すれば、きっと何かが起こる。いや、必ず巻き起こしてやる!
内野ゴロでも、中前安打でも、猛然と一塁へ向かっていくその姿に、“奇跡”を起こしてやるぞ! のバイタリティとロマンがあふれる。
だから、内野手があわてる。足がもつれる。
待っていればグラブに入る打球を捕りにいくから、ファンブル、ジャッグル。見れば、褐色の弾丸、一塁ベース目前だ。あわてて、投げる手元を誤ってしまう。