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「最愛の母を交通事故で亡くし…」韓国の生ける伝説・申ジエ(37歳)が“下り坂”でも賞金14億円に到達できた理由「日本永久シードまで“あと1勝”」
posted2025/05/15 06:00

国内女子ゴルフメジャー初戦「ワールドレディスサロンパスカップ」を制した申ジエ(37歳)。生涯獲得賞金は史上初の14億円に到達した
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キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph by
Atsushi Tomura/Getty Images
今にも倒れそうな藤田さいきの満身創痍な姿を、同組で回っていた申ジエが知らないはずがなかった――。
「(藤田選手が)体調が悪い中でもコースの中でたくさん考えてプレーしている姿を見て、私も勇気をもらいました。スコアを落としても必死に粘り強くプレーしていたから、自分も頑張らなきゃいけないと思って戦いました」
今季の国内女子ゴルフメジャー初戦『ワールドレディスサロンパスカップ』で、通算7アンダーで並んだ藤田とのプレーオフを制して優勝した申ジエは、試合後に藤田の闘争心に賛辞を送った。プロの勝負の世界に情けは無用。相手がどんな状態だろうが、力を抜くことは相手にも失礼だ。
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一方、惜しくも2位だった藤田は開幕前から39度の発熱と体調不良に見舞われていた。薬で熱を下げながらの出場だったが、初日から首位発進。大会2日目には主治医とのオンライン診断で“棄権”を促されたが、「メジャーですからね。ここで棄権したらみんなビックリでしょう」と途中で去ることはしなかった。
しかし最終日のプレーオフのあと、18番グリーン脇でしばらく動けず、そのあとは自力でゴルフ場を出ることができないまま抱えられて救急車で病院に搬送。点滴などの治療のあと、「しっかりと対応したい」とクラブハウスに戻ってきて取材に応じた。
「私がやめるわけにもいかないですし。ほんとにジエちゃんと最後のいい勝負ができて、自分でも頑張ったなと思います。単純にゴルフが好きなんです。ジエちゃんを称えて、『おめでとう』とか、ちゃんとやりたかったんですけど、本当に最後こんな結果になってしまって、今は申し訳ない気持ちでいっぱいです」
経験豊富な2人のぶつかり合い
39歳の藤田と37歳の申ジエ。近年の女子ゴルフ界は20代前半の若手がツアーを牽引してきたが、メジャーの難セッティングの今大会では知恵と技術で攻略しあう30代の経験値豊富なゴルフでのせめぎ合いと、戦う気持ちのぶつかり合い、そして互いを敬うリスペクトの精神が感動のドラマを生んだ。
しかしながら、藤田の戦う姿勢が際立ったのは、その相手が元世界ランキング1位の申ジエだったからでもある。今回のメジャー優勝には、偉大な“記録”が誕生したこともしっかりと明記しておきたい。