サムライブルーの原材料BACK NUMBER
2年ぶりの直接FK弾を蹴り込むために。
本田ら選手にハリルが仕掛けた挑発。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byAsami Enomoto
posted2015/09/08 10:50
昨季はミランでも直接FKを決めている本田圭佑。無回転の破壊力はもちろん高いが、コントロールショットの精度も決して低くない。次戦こそ決めて欲しい!
ハリルホジッチが選手に仕掛けた「挑発」。
ハリルホジッチは試合前日のミーティングでエリアごとにFKのキッカーをパワーポイントで伝えてきたが、敢えて名前を外した状態で見せたこともあったという。その理由を尋ねると、指揮官はこう言っていた。
「これには挑発の意味もある。FKもPKももらっていないんだから書く必要ないだろう、とね。なにくそ、と思ってほしい。選手のことは信頼しているが、ここは心理面で働きかけていく必要があると思っている」
あくまで全員に向けたメッセージであり、本田をキッカーから除外しようとしているわけではない。彼に対しても“じゃあ、決めてみろ”と挑発しているのだ。
この2年間、本田がFKを決めてこなかったのは紛れもない事実だ。それでもキッカーの座が揺らぐことはなかった。彼を押しのけるようなキッカーが現れていないのも残念ではある。
本田に立ちはだかった中村俊輔という存在。
振り返れば、岡田ジャパンで本田が台頭してきたとき、立ちはだかったのが中村俊輔であった。
2009年9月のオランダ遠征で、中村が本田にFKを譲らなかったエピソードはあまりに有名だ。本田が蹴りたいという意思を伝えても、中村は聞き入れることなく自らが蹴った。
譲らないというよりも譲れないと言ったほうがいいだろうか。
中村がFKで重視していたのが、何よりもメンタルだった。彼は言っていた。
「セリエAのキーパーは怖がらない。壁に入った選手だって、どんどん前に出てくる。だから笛が鳴ったらすぐに蹴っていた。イタリアではフリーキックの駆け引き面でもかなり鍛えられた」
「相手の守備陣、GKに脅威をどれだけ与えておけるか。メンタルで押し込んでいくことができれば、FKの時間になるだけで精神的に優位に立てる時間が長くなるから」
技術を活かすためには、まずもってメンタルで相手を上回らなければならないことをイタリアの地で学んでいた。ボールをセットする前からGKとの駆け引きが始まっていて、迷うこと、集中が逸れることは心理戦の後退を意味した。そして決められなくとも、次に活かす情報収集の意味で「一本」を無駄にしない。彼のポリシーのもとでは、あの場面でキックを誰かに譲るという発想はきっとなかったはずだ。
それに海外なら、誰もが蹴りたがり、誰もが蹴らせたがらない。海外で揉まれてきた中村も本田も、お互いにそこは承知のうえでのやり取りだったように思える。