甲子園の風BACK NUMBER
聖光学院、9年連続甲子園の裏側。
「我の強い」集団がチームになるまで。
posted2015/07/28 11:35
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Genki Taguchi
歓喜の校歌を歌い上げると、聖光学院のメンバー全員が目を真っ赤にしながら全速力で大応援団が陣取る一塁側のアルプススタンドへ向かい、高らかに勝どきを上げる。
主将の三浦陸は真っ先に斎藤智也監督に抱きつく。部長、コーチと抱擁を交わす選手、両手で顔を覆いながら雄叫びをあげる選手……。皆、思い思いに喜びを爆発させた。
戦後では2005年から'12年までの智弁和歌山を超える、9年連続での甲子園出場。聖光学院は「高校野球100年」の節目の年に、また新たな記録を刻んだ。
斎藤監督は謙虚に偉業を噛み締める。
「勝って試合を終えることができて幸せです。選手たちは次第に人のありがたみが分かるようになってくれて嬉しい」
盤石ではなかった――V9の偉業の裏側。
今夏の戦いを振り返れば、6試合中コールド勝ち3回、1試合平均7.5得点と、数字だけを見れば危なげない試合運びだったように映る。しかし快勝した試合でも「初回に先制できなければどう転んでいたかわからなかった」と斎藤監督は危機感を持っていたし、4回戦の郡山戦では同点のまま終盤を迎える苦しい展開だった。日大東北との決勝も、先制されてからの逆転。スコアは3対2と接戦だったことからも分かるように、決して磐石で手にした「V9」ではなかったのだ。
いや、それどころか、今年は苦しみ抜いた末の戴冠と表現してもいい。
主将の三浦は言う。
「監督さんやコーチのみなさんは、自分たちが一番苦しめてしまったのに一番愛情を注いでくれました。だから、今日だけは福島で勝てたことを素直に喜びたいんです」
先輩を見ても怖気づかなかった1年生選手たち。
“我が相当強い連中”
それが、今年の3年生に対する監督、コーチ陣の共通認識だった。
Aチームのコーチを担当する石田安広は、苦笑いを浮かべながら3年生部員の入学当時の様子を説明してくれた。
「今までの子たちは、先輩のレベルを目の当たりにして『これが高校野球か!』と驚いていたものですが、今年の3年生の入学当時にはそれが感じられなかった。『このくらいやればレギュラーになれるんだ、甲子園に行けるんだ』のような甘い考えを持っている子が多かったですね」