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聖光学院、9年連続甲子園の裏側。
「我の強い」集団がチームになるまで。 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byGenki Taguchi

posted2015/07/28 11:35

聖光学院、9年連続甲子園の裏側。「我の強い」集団がチームになるまで。<Number Web> photograph by Genki Taguchi

「9連覇といっても毎年違うチームで戦っているわけですから……今年は今年のチームとして褒めてやりたいです」と語った斎藤監督。甲子園での最高記録は8強。今夏はそれを越えられるか?

2013年秋に途切れていた……県内公式戦連勝記録。

 聖光学院の部員数は1学年50人前後。大所帯のチームは、「育成」「Bチーム」「Aチーム」と3つに区分される。今年の3年生メンバーはほとんどが入学直後から育成を飛び越えてBチームからスタートするほど、素質豊かな選手が集まっていた。

 だからといって、すぐにベンチ入りできるほど聖光学院は生易しいチームではない。人間的に未熟であれば技術があっても背番号をもらうことはできないし、レギュラーであっても容赦なく試練を与えられる。

 彼らも、下級生時代から身をもってそれを体験してきている。

 '13年の秋。上級生が県内の公式戦連勝記録を95でストップさせ、打ちひしがれている姿を下級生として目の当たりにしている。その後のオフには1カ月以上、グラウンドでの練習を禁じられ、学校周辺の環境整備なども経験した。

 Bチームの監督も務める部長の横山博英は、「これからの聖光学院のためにも、もう一度、勝てる集団を作っていかなければならない」と彼らの将来を見定め、彼らの尻を叩いた。

「学校周りやグラウンドの美化活動をする。野球部の取材に来てくれたマスコミのみなさんや支援者、地域のみなさんに挨拶をする。それらは本来、当たり前のことであって、勝つための美学というか、そこを逃げ道にしてほしくなかったんです。あの頃のBチームは練習をやり込めていなかったこともあったんで、『勝つためにとことんやれ。野球を突き詰めていけ』と言ってきました。そこでもし、壁にぶち当たるようならばメンタルを鍛えていく。そうすればスポンジのように吸収してくれるだろうと思ったんですけどね……」

 横山の言葉が詰まる。少し間を置いてから、「僕の指導が間違っていたのかもしれません」と自嘲気味に漏らす。

 技術は確実に向上する一方で、彼らの自尊心は強いままだった。

「聖光に行けば甲子園に出られる」という勘違い。

 翌年の6月。

 横山がBチームの選手たちに向かって釘を刺す。

「お前ら、新チームになってから勝つ自信があるのか?」

 答えは「あります」だった。

 事実、夏の大会直前に行われる、毎年恒例のAチームとの壮行試合でBチームが勝利してしまう。力があることは、証明できた。だが、指導者たちの不安は逆に増していったという。横山が続ける。

「最近の子たちは『聖光に行けば甲子園に出られる』と勘違いして入学してきますけど、日を追うごとに『甲子園出場というレールの上を、ずっと走り続けられるわけではないんだ』ということに気づくんですね。1学年上の先輩ならば、連勝記録をストップさせたことで気力が低下するとか“ダメ要素”が現れやすかったんですが、今年のチームは、そういう負の側面を隠すというか苦しいことに目を背けるというか(苦笑)。要するに、こちらが何かを強く求めても響かなかったんですよ」

【次ページ】 野球において、「力がある」と「力を出す」とは違う。

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斎藤智也
聖光学院高校

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