マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「あいつにつなげばなんとかなる」
一挙8点生んだ清宮幸太郎の存在感。
posted2015/07/28 11:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
7回を終わって、東海大菅生5点のリード。
残るアウトはひとケタ9つになって、勝利へのカウントダウンが始まる。
状況は誰が見ても東海大菅生の“勝ち”だが、グラウンドで闘う本人たちの心中は、意外と揺れに揺れているものだ。
“結果”が実感になり始める中で、今日の試合のあとのこと、待ちに待った次の大舞台でのこと、長く辛かった今日までのこと、そして、とはいえ万が一この状況がひっくり返ったら……。
さまざまな思いが混然と選手の頭の中で交錯を始めると、それまでの集中がもうどこかへ消えていってしまう。
終盤8回、5点のリードは間違いなく大きい。なのに、追撃を受け止めようとする緊張感は選手の全身をじわりと縛り、手の平になまあたたかい汗をにじませる。
リードしている者だけが覚える、得体の知れない緊張感。
そんな中で、これまでとは違った意味での清宮幸太郎の「すごさ」を、われわれは思い知ることになる。
「清宮につなげば、きっとなんとかなる」
8回、早稲田実業の先頭・山田淳平三塁手(3年)が粘りに粘る。なんとか出塁して、反撃の突破口になろうとしている。そして、センター前にゴロのヒットが飛ぶ。
続く2番・玉川遼右翼手がファーストストライクをレフトへライナーで弾き返す。無死一、二塁。
5点開いた8回なのに、早稲田実業の攻めに粗さが見えない。
塁に出よう、そしてつないでいこう。本気でそう考え、その通りに実行している。
ならば、その先には何があるのか。
「清宮につなげば、きっとなんとかなる!」
ライト前ヒットを打つようなスイングで、ライトスタンドに放り込んでしまう“ガリバー”のような1年生スラッガー。
清宮幸太郎が早稲田実業に入学する1年も2年も前から、高校野球の世界でもまれてきた上級生たちにも、「あいつなら……」と本気で“夢”を描かせてしまう大きな存在感。