サムライブルーの原材料BACK NUMBER
名クロッサー・佐藤由紀彦が解説する、
FC東京・太田宏介のクロスの特殊性。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2015/07/22 11:30
7月15日、FC東京-アルビレックス新潟戦の2アシストで、太田宏介は自己最多の10アシストに並んだ。
FC東京の“プリンス”佐藤由紀彦も評価。
先月、FC東京普及部のコーチを務める佐藤由紀彦に太田のクロスについて尋ねてみたことがあった。左右利き足の違いはあれど、名クロッサーであった彼が現在の名クロッサーをどう見ているか興味があったからだ。かつてFC東京の“プリンス”と呼ばれ、今季から古巣にコーチとして復帰した彼はトップチームのテレビ解説なども務めており、太田のクロスを高く評価していた。
「凄いと思いますよ。対戦相手とすればFC東京のストロングポイントは太田のところだとスカウティングで上げているはずなのに、それでもあれだけアシストを量産できるんですから。狙う位置と、ボールスピードがいい。それにボールを入れるタイミングがいいから止められない。
相手とすれば太田に対峙しているのにそこからいいクロスが入ってくると、どうしても守りにくくなる。逆にボールの出どころが分かりづらくなりますから。彼は相手がいようがいまいが落ち着いていて、思ったとおりのボールを蹴っている印象が僕にはある」
あのアシストシーンを目にして、佐藤の言葉が胸にストンと落ちた。
レオ・シルバのカバーが間に合ったことで、新潟の守備陣全体に一瞬の緩みが広がっていなかったか。そこで出どころの分かりづらいクロスを送られ、動きが止まったようにも見えた。対峙する相手を苦にするどころか、むしろ逆手に取ってしまうのが太田の凄さと言えるだろうか。
「勝負をすることを絶対に忘れちゃいけない」
しかし何故、相手とのタイミングを外せるのか。
太田が次に語った言葉に納得がいった。
「勝負をすることを絶対に忘れちゃいけないって思っているんです。明らかに抜き切ることはできないなと思っても、勝負してそれでコーナーキックが取れればそれでいい。中に行くパターンが増えればいいなとは思うけど、基本的には(サイドから)中に入っていくのは、なんか相手に導かれているようで、自分のなかでは嫌だし、負けだと思っていて、たとえ縦を切られても縦に行きたい。そのこだわりは絶対に捨てたくない」
常に勝負する気持ち。
外すテクニックよりもそれこそが第一にあって、その一方でクロスを放つベストのタイミングを探っているのだから相手としては当然読みづらくなる。レオ・シルバからすれば、太田がもう一度ドリブルのスピードを上げて縦に勝負してくる姿を予期していたのかもしれない。