サムライブルーの原材料BACK NUMBER
名クロッサー・佐藤由紀彦が解説する、
FC東京・太田宏介のクロスの特殊性。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2015/07/22 11:30
7月15日、FC東京-アルビレックス新潟戦の2アシストで、太田宏介は自己最多の10アシストに並んだ。
一瞬の判断と直感がチャンスを生み出した。
ペナルティーエリアの手前までボールを運んでくると、ボランチのレオ・シルバが体を寄せてくる。彼はその前に一度、中に視線をやっていた。
「直さん(石川直宏)がニアに相手を引きつれてくれているのが見えたんです。(センターバックの)大井選手の目が直さんに行っていて、これなら後ろから走り込んでくる味方を捕まえづらいな、と。(新潟の守備は)人がいるようで、スペースを埋め切っていなかった。自分が入っていくと同時にスポットが見えていたので、直感的にここに出したいなと思っていたら、そのときに(後ろから走ってくる)慶悟が視野に入ってきた」
太田が真骨頂を見せた一本のクロス。
太田が持ち上がると同時に、石川がニアに2人を引きつけ、前田遼一が中央にいることで相手2人の動きを止めていた。石川と前田の間にできたスペースに、東が入ろうとしていたのをチラ見で確認できていた。
眼前には抜群の守備力を誇るレオ・シルバ。しかし太田の真骨頂はここからである。
追いついたことでスピードを一瞬緩ませたレオ・シルバのわずかな“隙”を見逃さず、タイミングを外すようにグラウンダーのクロスを放ったのだ。
「レオも追いついていたので(自分のところから)やられることはないなって、ちょっとした油断はあったと思うんです。そこでインステップ気味のキックで出したんですけど、もしインサイドで出していたらレオの右足に当たっていたかなと思う」
コンマ数秒の駆け引き。
ボールを送るべき場所は察知できても、目の前には相手がいる。一つ間違えればクロスを引っかけてしまう、または味方との呼吸が合わなくなるという状況で、彼は難なくこなしている。キックの質もさることながら、対峙する相手を苦にしないからこそ「太田にしかできないクロス」となる。