沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
ゴールドシップはなぜ走ったのか?
パドックで見せた、ある変化とは。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byYuji Takahashi
posted2015/05/07 12:00
6歳にして3度目の正直で春の天皇賞を制したゴールドシップ。次は宝塚記念3連覇の偉業がかかる。
しかしゲート入りの時、思わぬトラブルが……。
ところが、いざゲート入りとなると、なかなか入ろうとしない。後ろ向きでゲートに誘導され、反転して「さあ入るか」と思われたところで、嫌がって後ずさりする。ついには目隠しをされ、先に入った奇数番の馬たちを3分近くも待たせ、ようやくゲートにおさまった。
普通、ゲート入りを嫌がるのは、狭いところを怖がっているからだと思われる。その証拠に、なかなかゲートに入ろうとしなかった馬ほど、ゲートの出は速くなる傾向がある。嫌なところから少しでも早く脱出したいからだ。
しかし、ゴールドシップの場合はそうではなく、いつもスタートが遅い。この日は他馬とほぼ横並びでゲートを出たのだが、鞍上の横山典弘が手綱をしごいても行き脚がつかず、先頭から大きく離れた最後方からレースを進めることになった。
横山典弘が信じていた、「非常識」なまでの力。
何から何まで並ではない。向正面でもそうだった。
ゴールドシップは、前半2000mを通過したあたり、つまり、残り1200mほどもあるところから一気に進出し、前との差を詰めた。2周目の3コーナーでは、先頭から2馬身ほどの3番手まで押し上げていた。
今の京都はいわゆる「高速馬場」で、この日は1000万条件でも上がり3ハロン33秒台で決着していた。逃げ、先行馬に33秒台で上がられた場合、4コーナーでその馬より仮に5馬身後ろにいたとすると、1秒以上速い32秒台で上がらないと差し切れない。
そうした計算が横山にはあったのだろう。
とはいえ、普通、道中でこれだけ脚を使うと、末脚の切れが鈍ってしまうものだ。が、たとえ鈍ったとしても、物理的に不可能な32秒台や31秒台の脚を使わなければ勝てない、という競馬にはならないようにしなければならない。
そう理屈ではわかっていても、道中余計な動きをすると勝利から遠のく、というのが競馬の常識だ。ここまで思い切った騎乗ができたのは、ゴールドシップの「非常識」なまでの力を信じていたからだろう。