オフサイド・トリップBACK NUMBER
ハリルホジッチ監督の最大の魅力、
オシム以来の「コミュ力」に期待。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/05/05 10:30
イビチャ・オシムとの共通点をたびたび指摘されるハリルホジッチ。同じ旧ユーゴスラビア出身ということも関係しているのだろうか。
ハリルホジッチ就任でメディアも活性化。
と同時に、ハリルホジッチ監督の就任はメディアも活性化させた。
ハンス・オフト曰く「監督選びというのは『お見合い』のようなもの」であることを考えれば、新監督の就任直後に報道が熱を帯びるのは恒例行事だともいえる。
しかし現実には、ルーティン的な盛り上がり以上の現象が起きている。新監督は「Good Talker(話がうまい人間)」であるだけでなく、「Great Communicator」(コミュニケーションの達人)であり、懸案をきちんと俎上に載せて意見を表明しようとする「Polemist(議論好きなタイプ)」だからだ。
冒頭で触れた体脂肪率の議論は言わずもがな、Jリーグの実行委員会ではプレースピードの遅さや球際の弱さといった問題点だけではなく、レフェリングのレベル改善や、選手の疲労回復を早めるための施設の建設まで求めた。
チュニジア戦とウズベキスタン戦のメンバー発表が独演会と化したのは記憶に新しいし、W杯の2次予選で同組になった4カ国に対しても、対戦相手に敬意を払った上で「我々と同じレベルにあるとは思わない」と断言している。慎重に振る舞うことだけを考える人間だったなら、「何が起きるかわからない。油断は禁物だ」といった種類の凡庸な発言に終始していたはずだ。
日本サッカー界が久々に得た、良き対話の相手。
いずれにしても日本サッカー界は、イビチャ・オシム以来、久々に良き対話の相手を代表監督に迎えたような気がする。もちろん岡田監督がW杯南ア大会で結果を出したのは評価すべきだし、ザッケローニ監督も尊敬に値する人格者だった。そしてアギーレ監督には同情すべきところもあった。しかし、個人的にはハリルホジッチというコミュニケーションの名手が監督に就任した喜びの方が大きい。
オシムは『語録』とも呼ばれる難解な言い回しで、取材陣を煙に巻くことも多かった。自分が目指していたビジョンの全貌を語ったのはサラエボに戻ってからだし、正解を簡単に明かすのではなく、選手にも我々にも「自分の頭で考えていくことを教えた」偉大な教師役を務めた。
かたやハリルホジッチ監督は、確固たるサッカー哲学を持ちながら、実にストレートでわかりやすい物言いをする。W杯の本大会が始まれば、ここまで包み隠さずに本音を言ってくれるシチュエーションは減るのかもしれないが、それはそれで構わない。代表監督はいかにメディアとコミュニケーションを取っていくべきか、どこまで情報を開示し、どこで一線を引くかという基準をとことん議論していけばいい。