錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
なぜ錦織圭は逆境でこそ輝くのか?
異国での修行で磨いてきた2つの力。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2015/03/16 17:00
チャン・コーチからはいつも「Believe yourself(自分を信じろ!)」と言われている錦織。チャン・コーチの高度な作戦が実行できるのも、錦織の類まれな能力のなせる業だろう。
錦織封じのコートにむしろ見出した勝機。
しかし錦織自身は、カナダが錦織封じで選んだはずのコートの特性にむしろ勝機を見いだしていた。
「弾まないコートだったので、ファースト(サーブ)を返すのは難しいですけど、セカンドのときはしっかり中に入って打ちさえすれば、打ちやすい胸の位置で打つことができた。そのおかげでタイミングがとれてきたのかなと思います」
初日にカナダ2番手のポスピシルとの試合で、その感触を確かめ、3日目のラオニッチとの大一番ではイメージを作り上げていた。
また、このコートでのラオニッチの弱点にも目を付けていた。
「ラオニッチの場合はどのサーフェスでもファースト(サーブ)はなかなか返せない。でもストローク戦になったとき、回り込むのが彼のスタイルなので、それをさせなかったというか、彼がそれをできないサーフェスだったのは、自分に有利だったかもしれない」
伊藤竜馬に、ひたすらバックのスライスをリクエストしていた。
ラオニッチがフォアに回り込めず、バウンドの低いショットを処理するならスライスを多用するはず……錦織は2日目のダブルスが始まる前の練習で、チームメートの伊藤竜馬にひたすらバックのスライスを出してもらっていた。伊藤は、それが錦織のリクエストだったことをあとで明かした。
こうして錦織は、ラオニッチ有利と見られたコンディションの中に、自分の有利、ラオニッチの不利を見いだし、そこから戦術を練り、それをやり遂げ、いつも苦戦するラオニッチのサーブを5セットで4回ブレークして、勝利をつかんだ。
実は、ラオニッチの弱点については、開幕前日のドローミーティングのときにカナダのベテラン記者から聞いていた。秘密を教えるように、でもどこか得意げに話してくれた情報は、「みんなが言っているほどここはミロシュに合ったサーフェスではない。ミロシュの得意なショットは(バック側に来たショットを)回り込んで高いところから叩き込むフォアハンドだ。このように弾まない高速サーフェスではそれがなかなかできない」というもので、まさに錦織が言ったことと同じだったが、錦織がこのサーフェスの特性をラオニッチのサーブ攻略にまで生かすとは、その記者も含め、誰も読めなかっただろう。