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阿部勇樹を叫ばせた浦和サポの罵声。
彼らの挑戦に尊敬と、少しの時間を。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2015/03/06 10:30
非難の声を上げるサポーターに熱弁をふるう阿部勇樹。彼がここまで感情的になる姿はかつて見たことがない。
これはもうJリーグそのものの問題だ。
目の前で行なわれているのは、浦和レッズとブリスベン・ロアーという2つのクラブ間の試合だったが、僕にはそれがオーストラリアと日本という、2つの国のサッカー観の違いに見えた。苦戦の原因は浦和レッズという1クラブの問題ではなく、これはもうJリーグそのものの問題だ。
毎週末、どういうスピードのパスを回そうとし、どういう速さのプレッシャーをかけようとし、どういうレベルのサッカーを目指して試合に挑んでいるのか。Jリーグでは通用するプレーが、ブリスベン相手には通用しない。それは、日本代表がかつて胸を張った球回しが、次第にオーストラリア代表に通用しなくなってきた現実とかぶって見えた。努力と精進と工夫を怠れば、立場はあっという間に逆転する。
Jリーグでならなんとかなる試合も、ACLでは別の話だ。
後半、レッズは前半まったく仕事ができなかった新加入のズラタンに代えて石原直樹、加賀健一に代えて梅崎司を投入する。
ブリスベンが前半から飛ばしたことで、若干息切れしたこともあるだろう。
さらには、レッズの選手がようやく相手選手のプレッシャーとリズムに慣れてきたこともあるのかもしれない。
チームの動きは目に見えてよくなり、何度か相手ゴール前に迫り始めた。
しかしその期待感は6分しか続かなかった。
ディフェンダーの真ん中に入った那須が、中盤から戻ってきたパスを処理し損ね、そのボールを奪って一気にドリブルに入った相手選手を完全に掴み倒してしまう。得点機会の意図的な阻止、すなわちレッドカード。
一人少なくなった方が結果的に攻撃的になり、同点においつき、あるいは逆転すら演じてみせる。そんな風にJリーグでならなんとかなる試合も、ACLレベルでは別の話だ。
その後もレッズは彼らにできる範囲内では攻めて見せたが、ブリスベンのゴールマウスは極めて頑強に固められ、それを突き崩せる雰囲気は、正直あまりなかった。一方、西川のビッグセーブがなければ、浦和がさらに失点を喫していたかもしれないシーンは何度かあった。
ロスタイムは3分、しかしその180秒が何かを大きく変えることもなかった。
試合終了のホイッスルが鳴り、ブリスベンの選手たちは抱き合って互いの健闘を称え合う。その輪の手前で、この試合からチームに復帰した興梠慎三はしばらくしゃがんだまま動かない。