ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山英樹による究極のクラブ選び。
「おつかれさま」の言葉の深い意味。
posted2015/02/25 10:40
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
AP/AFLO
「おつかれさまっす」
この言葉が響くと、周囲の人間の口元はいっせいに苦笑いになる。
トーナメントを控えた試合会場の練習場。手に取った真新しいクラブに送る、松山英樹の視線はいつも鋭い。
野球やテニスなどと同様、ゴルフも道具を扱うスポーツ。トップレベルの選手であればあるほど、道具に対する繊細な感覚を持ち合わせているものだろう。2015年も破竹の勢いを見せる松山も、紛れもなくそんなプレーヤーのひとりである。
大会開催コースの片隅には毎試合、ツアーバンと呼ばれる各クラブメーカーの大型車両が並んでいる。契約選手のクラブを調整するメーカースタッフたちの、仕事場だ。
ゴルフクラブの整合は極細部にわたる。数グラムの重さ、ミリ単位の長さ。クラブとシャフトが交わる角度の調整は0.5度以下の範囲にまで及ぶ。ヘッドが接地するソール部分の形状や、構えた時のフォルムの見え方……。契約プロの様々な要望に応えるため、担当者たちはツアーバンと練習場との間を何往復もするのだ。
どこまでも厳しい選別と、優しい謝罪の言葉。
彼らの仕事は、足を使った回数が多ければ報われるとは限らない。
なかでも松山は、いつも厳しい。
ドライビングレンジで実際にボールを打てば、第1段階のクラブの“見た目”は合格。2球以上、立て続けに打てば“感触”も悪くない。晴れて練習ラウンドに連れていってもらったクラブだけが、実際のコースでの飛距離や、様々なライへの対応力が試されることになる。その段階でさえも、同じ番手のものが10数本持ち込まれることがザラだ。
試合で使う1本を選びぬく全過程で、第1関門すら通れないクラブが山ほどある。一瞥しただけスイングも無しに「『おつかれさま……』って感じです。なんか、すいません……」と申し訳なさそうに担当者に“返品”している松山。そんなシーンが、彼の周りでは日常化している。