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アメリカで武者修行を続ける大迫傑が、
日本の陸上長距離界にもたらす意義。
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAyako Oikawa
posted2015/02/24 10:35
レース中盤、集団内を好位置で走っていく大迫傑。早稲田大学時代、2011年の箱根駅伝で1区区間賞を獲得。母校の18年ぶりの総合優勝に貢献した。
スパートがはじまり、大迫も勝負をかける。
残り600mでサミュエル・チェランガ(ケニア)が矢のようなスパートをすると集団は一気に縦長になった。ロモンを始め、選手たちはチェランガを猛追する。大迫も腕を大きく振り、ストライドを使ったダイナミックな走りで先頭に食らいつく。後方から追い上げてくる選手たちと激しい位置取りを繰り広げながら、首位の選手の右後方という絶好の位置でラスト1周を迎えた。バックストレートにはいると、苦しそうな表情を浮かべながらも格上の選手を相手に首位を窺う。最後の直線では惜しくも2選手に競り負けたが、ラストでも伸びを見せ、強豪揃いの中で堂々3位に食い込んだ。
スピードランナーたちを相手に必死の形相で食い下がり、フィニッシュラインを駆け抜けるまで「勝ちたい」と言う気持ちを前面に出した走り。これから世界で戦っていくんだ、という大迫の強い覚悟と気迫が感じられたレースだった。
ゴールすると大迫は悔しそうな表情を浮かべ、直後には反省が口をついた。
「ラスト勝負であそこまで粘れたのは自信に繋がりました。でも過去2レースで2、3番という所で落ち着いてしまっているので、ダメでもいいから、しっかりと勝負を取りにいくのが課題です」
人生ではじめて周回遅れにされた経験がもたらしたもの。
長距離種目で日本と世界の差はとても大きい。世界陸上や五輪において、マラソン以外の長距離種目ではシドニー五輪の1万mで高岡寿成が7位に入って以来、日本男子の入賞はない。それどころか周回遅れになるケースもある。
2001年に高岡が作った1万mの日本記録27分35秒09が未だに破られておらず、エチオピアのケネニサ・ベケレが持つ世界記録26分17秒53とは1分以上離されている。また昨今の世界レベルの大会はラスト800mくらいからスプリント競争になることが多く、絶対的なスピードがなければ戦えない。
大迫は早稲田大学1年生の時に出場した世界ジュニア選手権で、人生初の周回遅れにされたことを今でも鮮明に覚えている。「あわよくばメダル」という小さな野望はアフリカ勢の驚異的なスピードに打ち砕かれた。だが、それは同時に世界を意識した瞬間だった。