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アメリカで武者修行を続ける大迫傑が、
日本の陸上長距離界にもたらす意義。
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAyako Oikawa
posted2015/02/24 10:35
レース中盤、集団内を好位置で走っていく大迫傑。早稲田大学時代、2011年の箱根駅伝で1区区間賞を獲得。母校の18年ぶりの総合優勝に貢献した。
大学3年の春、「オレゴン・プロジェクト」の門を叩く。
大学に在籍している以上、駅伝で責任を果たす必要もあったが、「個人として評価されたい。世界で戦いたい」という気持ちが勝った。
「オレゴン・プロジェクト」の門を叩いたのは、 大学3年の春だった。「オレゴン・プロジェクト」とはマラソンの前米国記録保持者で往年の名ランナー、アルベルト・サラザールをコーチに据え、打倒アフリカ勢を目標に結成された、米国オレゴン州を拠点に活動する長距離グループだ。現在はロンドン五輪1万m金のモハメド・ファラー、同じく銀のゲーレン・ラップをはじめ、五輪や世界陸上のメダリストたち10名ほどが参加。彼らの目標は国際大会出場ではない。そこでメダルを取ることだ。
大迫は当初からサラザールに双手を挙げて迎えられたわけではなかったが、そのフォーム、潜在能力に惚れ込んだサラザールは、今では東京五輪のマラソンで大迫にメダルを取らせると断言。昨春から、日清食品グループに所属しつつも練習拠点をオレゴンに移した彼に、長期的な育成計画の下で、じっくりと練習を積ませている。
2015年の北京世界陸上、そして2020年の東京五輪へ。
2015年に入ってから室内レース3戦を走り、最初のレースではいまひとつだったものの、続く2戦で2マイル(=3200m)、5000mの室内日本記録を更新。レース内容もタイムも1試合ずつ良くなっているが、「この時期に室内レースを走るのは今季が初めてなので、うまく屋外に移行できるのか不安はあります」と本人の表情はまだ硬い。
初めてのことだらけの状況下で、予想以上に走れていることへの手応えとプレッシャーが混沌としているのだろう。しかし故障さえなければ、その心配は杞憂に終わるはずだ。サラザールの調整能力はとても高く、狙った大会で選手が失敗レースをしたケースは稀だから。
大迫のレース動画を見た高校生がtwitterでこう呟いていた。
「これでまた世界と大迫の差は縮まって、日本と大迫の差は開く一方だ」
世界のトップにはまだ遠く及ばないことは、ファラーらと練習をしている大迫が一番理解している。しかしわずかではあるがその差は確実に縮まっている。成長を感じている今、描いている目標がある。
「5000mは12分台、1万mでは26分台を目指したい。そこまで長い道のりですし、到達できるか分かりませんが、長距離選手なら目指すのは当然です。そして地元で行なわれる東京五輪ではマラソンで金メダルを取りたいです」
大迫が日本の長距離界にどんな変革をもたらしてくれるのか。大きく期待しながら、1人アメリカで走る日本人ランナーの挑戦を見守りたい。