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言葉で読み解く羽生結弦の「本質」。
理想を追う様は、まさに形而上学?
posted2014/12/24 10:40
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
AFLO
ギリギリで6枠に滑り込んだとは思えない、圧倒的な勝利だった。
中国杯での衝突事故からまだ1カ月余りというタイミングでありながら、羽生結弦は他を寄せ付けない強さでGPファイナル連覇を達成した。
凄いのはそれだけではない。昨季GPファイナルで初めて頂点に立ってからというもの、ソチ五輪、世界選手権、今季GPファイナルと、世界の主要大会をすべて制していることが驚異的だ。ソチ五輪で金メダルを獲得した反動をみじんも感じさせないどころか、進歩の速度をさらに上げようとしていることには、誰もが感嘆している。
結果が示す成長ぶり。では、その下支えとなるメンタリティーはどうだろうか。彼の口から出た数々のコメントを読み解いてみると、そこには新しいスタイルのアスリート像の土台となる信念が潜んでいる。
「フィギュアは自分自身との戦い」
世界の頂点に立った2月のソチ五輪。会見場に姿を現した羽生は、舞い上がるような態度を一切見せず、世界各国の報道陣からの質問に落ち着いた口調で答えた。
印象的だった受け答えの一つに、「フィギュアは自分との戦いだ」というものがある。
質問者が羽生に、「フリースケーティングで4回転サルコウを跳んだのはなぜか」と訊いた。ショートプログラムで首位に立っていたことを考慮すれば、当時成功率の低かった4回転サルコウを外す安全策を採るという選択肢もあったのではないか、と投げかけたのだ。羽生はこう返した。
「例えば対人競技や(同走者のいる)スピードスケート、ショートトラックなら、特別に何かをやる必要があるのかもしれない。フィギュアは自分自身との戦い。どれくらい精一杯やれるかというのがフィギュアスケートで一番大事なところだ。五輪を一つの試合として全力を出し切りたいと思ったので、サルコウを跳んだ。シーズンを通してずっとやってきたジャンプなので、変えたくないという思いがあった」
日々のトレーニングで技術的な課題に対処しながら、同時にフィギュアスケートの意義、アスリートとしてどうあるべきかを探求している姿が垣間見れるコメントだった。