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言葉で読み解く羽生結弦の「本質」。
理想を追う様は、まさに形而上学?
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2014/12/24 10:40
演技はもちろんだが、発言にも圧倒的な個性が光る羽生結弦。これからも、どんな言葉が彼の口からつむがれるのだろうか。
「負けたときに何を考えるかが大事」
「負けたときに何を考えるかが大事」という言葉も印象的だ。
昨季は最大のライバルであるパトリック・チャン(カナダ)にGPシリーズで連敗したが、敗れるたびに燃え上がる羽生がいた。悔しさをモチベーションとした結果のGPファイナル優勝と五輪金メダル。ソチ五輪の会見で羽生はこう言った。
「パトリック選手にただ負けるだけではなく、負けたときに何を考えるかということを大切にしながらシーズンを過ごしてきた。それが今回(五輪金メダル)につながったのかなと思う」
「弱いということは強くなる可能性がある」
この言葉は、今季のGPファイナルの前のコメントとも共通している。
「ファイナル(出場権)は最後にギリギリでつかんだが、弱いということは強くなる可能性がある。厳しい状況に立たされているけど、それを乗り越えた先にある景色は良いものだと信じている」
苦境さえも天の配剤と捉えているこの発想は、負けを成長のためのチャンスと受け止めるのと重なる。
ここで重要なのは、なぜ羽生は敗北をこうまで前向きに捉えることができるのかということだ。それは、平時に“自分との戦い”というメンタル的に負荷の大きい能動的な作業をこなしているから。一方、負けるということは、さらなる成長のためのヒントやモチベーションをプレゼントされる、受動的な体験だというポジティブな発想なのだろう。
最近驚いたのは、今季のNHK杯で羽生がふと口にした言葉が、極めて強烈であるのに自然な響きを持っていたことだった。
「はっきり言って僕にとっては五輪チャンピオンになろうが、世界チャンピオンになろうが関係ないんですよ」
世界一になる前から掲げている「目の前の試合に全力を尽くす」という目標をブレることなく持ち続け、それを有言実行している羽生の言葉には整合性がある。だから自然に聞こえるのだ。