プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「笑う阪神」ではCSを勝ち抜けない。
揃った戦力と勢い、あとは厳しさだけ。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/10/10 12:00
終盤の接戦を制してシーズンを2位で終えたことで、来季の続投が決定した和田豊監督。本拠地甲子園で、広島を迎え撃つ。
選手に委ねる和田監督、策を講じる原監督。
和田監督は、最後は選手に委ねる采配をする。
例えば、スコアリングポジションに走者を送ったとすると、その後は打席の選手が安打を打つのを待つ。1死三塁になれば安打か犠飛が出るのを待って、打者によってはスクイズを仕掛ける。極端に言えば、打てなければ、スクイズが失敗すれば仕方ないという野球だ。
しかし原監督は、鈴木尚広という切り札を持つこともあり、スコアリングポジションの走者をさらに盗塁や送りバントで動かす。チャンスが広がれば偽装スクイズ、ダブルスチール、ギャンブルスタートとありとあらゆる方法で、打者が打てなくてもホームまでその走者を還す策を講じる。
継投にしてもそうだ。シーズン終盤の和田監督は、守護神・呉を8回から投入して勝利への執念を見せてきた。ただ、より確率の高い方策を講ずるための敬遠など、ベンチワークはあまりしない。1点を防ぐために万全の策を講じることなく、呉が抑えられれば勝てるし、打たれれば負けるという勝負になってしまう。
そこには個しかなく、組織としての規律がない。そこに阪神の闇が生まれるのである。
笑わない阪神、になれるか。
ベンチ主導の野球は、古くはV9時代の巨人や'80年代から'90年代の西武の黄金期、また'90年代にID野球を導入した野村ヤクルトなどがあった。今の巨人も、そういう組織として成熟しつつある。
どのチームもタレントは揃っていたが、最終的には監督に絶対的な権限が与えられて、監督の責任でただ勝つことだけを目標に組織は動いた。
だから、敗れることは組織としての敗北であり、選手はチームの中で各々の責任を厳しく問われることになる。そこではシリーズ敗北を目の前にして、選手に笑顔がでることなど絶対にあり得ないのだ。
だからこのCS、阪神にあえて求めるとすれば、どんな状況になっても笑わない阪神になれるか、ということである。和田監督のCSの最大のテーマは、そういう非情の采配が振るえるかどうかだ。このチームが本当に組織として機能すれば、ファーストステージから一気に下克上への道が開ける。