野球クロスロードBACK NUMBER
山田哲人を「至宝」に変えた“基本”。
193安打は、ティー打撃から生まれた。
posted2014/10/09 10:50
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Hideki Sugiyama
残り2試合で4安打。
阪神の藤村富美男が1950年にマークした、日本人右打者のシーズン最多安打記録を射程圏内に入れていたヤクルトの山田哲人だったが、結果的にその偉業は、「いとも簡単に」と表現していいほど、あっさりと達成された。
チームとして143試合目となる10月6日のDeNA戦。第1打席にセンター前に弾き返すと、第3打席でレフト線への二塁打を放ち記録に王手をかけた。
そして第4打席。山口俊の外角低めのスライダーに上手く反応し、バットを折りながらもしぶとくレフト前に運んだ。
「とにかく食らいついていこうと思いました。気持ちで打てたヒットでした」と、山田はタイ記録の一打を振り返る。「調子のいい打者の打球は、不思議と野手がいない場所に落ちるものだ」とよく言われるが、まさにそんな安打だった。
小川淳司監督「スリーボールからでも打っていいぞ」
新記録をかけた8回の第5打席は、圧巻のひと言に尽きた。
「スリーボールからでも打っていいぞ。空振りでもいいから思い切りバットを振ってこい」
1死満塁。長打が出れば逆転の絶好機で、山田は小川淳司監督の言葉に後押しされ打席に向かう。
カウントスリーボールから、山口のど真ん中のストレートを見逃さず強振。指揮官の指示通り、「空振りでもいいと思ってフルスイングした」打球は、鮮やかな放物線を描きながら左中間スタンドに吸い込まれていった。
シーズン192安打。64年ぶりに日本人右打者の安打記録を塗り替えた山田は、興奮を抑えるように喜びを口にした。
「打った瞬間入ると思いましたけど、はしゃぐのもどうかと思いながらベースを一周しました。ホームの神宮で、ファンの応援のなかで記録を達成できてとにかく嬉しいです」