野ボール横丁BACK NUMBER
「機動破壊」が壊した常識と精神。
健大高崎が甲子園に残した“衝撃”。
posted2014/08/22 18:25
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Kyodo News
機動破壊――。
この美しくも恐ろしげな四文字を掲げ、快進撃を続けた健大高崎(群馬)の陰には、コーチの葛原毅(32歳)の存在があった。
葛原が言うには、走塁においてもっとも重要な要素は「スタート」であり、それを後押しする「心理的優位性」だと言う。
「たとえばけん制がもう来ないとわかっていたら、誰でもいいスタートを切れますよね。そこで投手がだいたい何球ぐらいけん制するものなのか、統計を取ってみたことがあるんです。そうしたら通常は2つか3つだった。3つけん制をしたら、4つ目はまずない。
それと同じような状況を、いろいろなところから見つけてくるわけです。基本的な盗塁技術は教えてますが、技術だけを見れば、聖光学院とかの方が上だと感じました」
テレビを見ながら聞いた父の解説が背景に。
葛原は現役時代、ファーストとしてプレーした。しかし50m走は7秒8と遅く、国士舘大時代は一度も盗塁を成功させた記憶がない。
しかし幼少期、愛知・杜若(とじゃく)高校などで監督を務めた父・美峰(よしたか)の解説を聞きながら毎日テレビ観戦していたせいか、相手の心理を読みながら野球を見る癖がついた。
「父親の『今、ピッチャーの心理はこうだから、こうなる』みたいなのを聞きながら見ていたので、ちょっとひねくれちゃったんです(笑)。ピッチャーのボールが遅くて、キャッチャーの肩も弱いのに、ノーアウト一塁で送りバントをしたら、相手はさぞかし楽だろうな、とか。セオリーと言われるものは、いつも疑っていましたね」
2007年に健大高崎のコーチに就任した葛原は、Bチームを任された。そこで自分の思いを少しずつ具現化していく。
2010年夏、健大高崎は群馬大会準決勝で前橋工業に0-1で敗れる。その敗戦をきっかけに「何か変えなければ」(青柳博文監督)と、葛原が指導していた機動力をチーム全体で本格的に導入するようになった。