マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
実は左投手は、左打者が苦手?
高校野球の“セオリー”は正しいか。
posted2014/08/09 08:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
私が高校野球に励んでいたのは1970年代、もう40年ほども前のことになる。当時は、「水を飲むな」をかたくなに守っていた。いやそうではない、守らされていた。そんな時代の高校球児だった。
投手たちは「投手は肩を冷やすな」を金科玉条のごとく守っていた。私とバッテリーを組んでいたアンダーハンドなどは、3年の夏が終わったので同期みんなで海に行こうと話がまとまった時でも、それでも肩が冷えると言い張って、一人だけ同行を断ってきたものだ。
いずれの「教訓」も、いつ、誰が、何を根拠に言い出したかわからないもので、とても長い年月にわたって、なぜかみんなが何の疑いもなく信じて、その通りにしてきたものだ。
今となっては、さかのぼっても由来は定かではないのだろうが、こうした“お約束”は今でもいくつか語り継がれている。
左打者は左投手が苦手。では左投手は?
左打者はサウスポー(左投手)を苦手にしている。これも、語り継がれているものの一つであろう。
確かに、多くの左打者がそれを認めていることは事実である。ならばサウスポーは左打者を得意にしているのかというと、これは多くのサウスポーが否定する。これも事実である。
左打者はサウスポーが苦手。ところが、サウスポーも左打者を苦手にしているのである。
これは、左打者と対戦している時のサウスポーの様子をちょっと注意して見ていると、すぐわかる。まず、左打者を迎えると、腕の振りが鈍くなる。外角ばかり投げる。初球に変化球を投げなくなる。その代わり、次の右打者の初球はまず変化球。そんな傾向が見えてきたら、十中八九、そのサウスポーは左打者を苦手にしていると考えてよい。
左打者とサウスポーが互いを苦手にする理由はいくつかあるのだろうが、まず挙げられるのが、対戦機会が少なく慣れていないということだろう。
相手に慣れていないということは、正体がよくわからず、要するにどうしていいかわからない。相手がよくわからないという不安感は、人間にとって最も気持ちの悪いことである。