マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
実は左投手は、左打者が苦手?
高校野球の“セオリー”は正しいか。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2014/08/09 08:00
高校野球のドラマは、時としてセオリーを超える。今年も、どんなミラクルが球児たちを待ち受けているのだろうか。
イチローの登場以来、左打者は急増したが……。
イチローの出現以来、日本の高校野球には左打者が急激に増えた。その分、サウスポーが左打者と対戦する機会もどんどん増えているのだから、慣れる機会もどんどん増しているはずなのに、左打者を得意とするサウスポーが増える気配はない。
取材で高校野球の練習におじゃまする機会は多く、伺えばまずブルペンに足を運んでしまう私だが、考えてみると、打者(人形でもよい)を左打席に立たせてピッチング練習をしている光景を見た記憶はない。
実戦になれば、無人の打席に向かって投げることなど絶対にないのに、練習ではほとんどの投手が打席を無人にしたまま投げている。実戦ではあり得ない状況でいくら練習したところで、それはあくまでも擬似体験でしかなく、本質のところで練習になっていないのではないだろうか。
140kmを打つために、150kmのマシンは必要か。
「140kmの投手を攻略するために、150kmのマシンで練習してきました」
高校野球の現場でよく聞く話だ。これは私感なのだが、この話、敗れた監督の談話の中に多く出てくるような気がしている。
以前実際に、強敵との対戦を翌日に控えたチームがそうした練習をしている場面に立ち会ったことがある。
マシンから飛び出してくる150kmは、実は200kmあるのではないかと思うほど怖ろしく速く、その猛速球を自分のフォームとタイミングでバットの芯にジャストミートさせることの出来る選手はほとんどいなかった。
振り遅れた力のないゴロの打球と、ボールの下をこすった低いフライがフラフラと飛び交うだけ。イメージ通りの打球を打ち返せない選手たちの表情にいら立ちがつのっていく。
明日の決戦に備えて前向きの感覚を体に刷り込んでおきたいはずなのに、失敗体験を重ねるだけに終始してしまっていたのが残念だった。
思うに140kmを打ち崩すには、130kmを8割方ジャストミートで弾き返す練習を重ねるほうがよい。
自分のフォームとタイミングを確かめながらジャストミートを繰り返す。つまり、「成功体験」を体に刷り込んでいくことで、果敢に強敵と戦う闘争心や勇気がチャージされていく。私はそちらのほうに期待したい。
日本ハム・大谷翔平と対戦するチームが、試合前に160kmのマシンで練習しているわけではないのだ。