野球善哉BACK NUMBER
投手故障の原因はMLBのみに非ず。
「熱投」「連投」を称える日本の風潮。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/07/28 12:10
速球だけでなく、スライダー(および縦スライダー)、ツーシーム、カーブを持ち球とし、しかも制球力まであるという立田。高校時代の伝説をスルーして、プロで活躍できるか?
安楽智大の登板過多で問題はクローズアップされたが。
とはいえ小島氏の指摘は、これまで日本の野球が培ってきたものの考え方からすると、受け入れがたいものであるだろう。
昨年の春の選抜で済美・安楽智大投手の登板過多が話題になった際、日本の球団のスカウトも、限度を越えた起用に疑義を唱えていた。しかし実際問題、本音の部分では甲子園や高校生の舞台で熱投するピッチャーにいまだに魅力を感じているフシがある。
今年の春季奈良大会での出来事がまさにそれを如実に象徴している。
準決勝、智弁学園vs.大和広陵戦でのことだ。
智弁学園にはプロ注目のスラッガー・岡本和真、一方の大和広陵のエース・立田将太は、最速149kmを投げる本格派右腕として注目されていた。スカウト陣は、この両者の対決に、評価を下そうとしていた。
ところが、大和広陵は立田の登板を回避。0-7の7回コールドで試合は決してしまったのである。
公立校を選び、連投を避ける高校球児、という道。
なぜこのようなことが起こったかというと、立田という投手が一風変わった思想を持つ投手なのだ。彼は連投をなるべく避け、極力効率の悪いことを嫌う。そうして、この高校生活の2年間を過ごしてきた。このケースでいうと、春季大会ですでに夏のシード権は獲得していたから、無理にエースの自分が登板する必要はないということだった。
小・中学時代に全国制覇を成し遂げた立田が地元の公立校を選んだのも、そうした、温かい指導者の下、無理な登板をしなくて済むからだ。「高校で潰れたら、何のために野球をやってきたか分からなくなる。肩やひじは、消耗品だということを分かってほしい」という持論なのだ。
だが、この試合のあとでスカウトから聞こえてきたのは、立田や大和広陵を非難する声だった。
「高校野球の中で全力でやらないピッチャーが、プロで通用するはずがない。投げ込みもあまりしないって聞いたけど、プロに入ったら投げるからなぁ」
今の日本野球界に、そうした「投げることを良しとする」風潮があることは間違いないのだ。