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軽量級から、スラッガーの指名へ!
強い広島の裏に、ドラフトの変化が。 

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小関順二

小関順二Junji Koseki

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photograph byHideki Sugiyama

posted2014/05/23 11:00

軽量級から、スラッガーの指名へ!強い広島の裏に、ドラフトの変化が。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

5月20日時点で15本塁打、47打点(どちらも12球団トップ)と当たりまくっている広島・エルドレッド。不動の4番として、丸、キラと共に打線の中軸を担っている。交流戦でも爆発し続けるか。

1、2番タイプが多く、大砲の指名は後回しだった。

 この指名を見て思うのは「二遊間を守るような1、2番打者タイプを多く上位指名している」ということだ。東出、井生、梵、安部、菊池がまさにそういうタイプで、木村、白浜は捕手、広瀬、比嘉にしても長距離タイプというわけではない。要するにスラッガーが少ない。

 強くなったのが機動力を駆使して初の日本一に輝いた'79年以降なので、どうしても脚力と守備力を重要視した人材の獲得と抜擢がチームカラーになっていくが、広島が強くなったもう1つの要因、山本浩二と衣笠祥雄という和製大砲2門が'69~'86年の18年間、他球団の脅威になっていたことも確かである。

 たとえば巨人ならON→原辰徳→松井秀喜→阿部慎之助とつなぎ、近年は坂本勇人('06年高校生1巡)、大田泰示('08年1位)、長野久義('09年1位)を上位で指名している。そういう備えを広島は長い間怠ってきた。

 プロで失敗する確率の高い一発屋タイプはドラフト下位で指名して、彼らがダメなら外国人選手に中軸をまかせて、伝統の投手力と機動力で勝ちを拾っていく、という考えだったのだろう。たとえば、'08年の選手名鑑を見ると前にも紹介した1、2番の小技タイプがチーム内に溢れている。

 東出、梵、安部をはじめ、山崎浩司、尾形佳紀、小窪哲也、松本高明、木村昇吾、中東直己、赤松真人、森笠繁と揃う。彼らはそれぞれいい選手だが、一軍候補にこれだけ同型が揃うと、打線のバランスが悪くなるのは当然である。この偏ったドラフトが'08年以降変わり始めた。

スラッガータイプがファームで残してきた記録。

 岩本、堂林、高橋、鈴木誠という強打者タイプを上位で指名するようになり、このうち堂林がチームの中心選手に育ちつつある。育成の難しい高校卒のスラッガータイプ、堂林、高橋、鈴木誠は1年目、ファームでどのような出場成績を残してきたのだろう。

堂林翔太 '10年 100試合出場、打率.207(357打数74安打)、本塁打7、打点32
高橋大樹 '13年  61試合出場、打率.219(128打数28安打)、本塁打2、打点12
鈴木誠也 '13年  93試合出場、打率.281(335打数94安打)、本塁打2、打点38

 高校卒1年目のファームでの成績は重要で、'91年の4位指名でプロ入りしたイチロー(当時オリックス)と中村紀洋(近鉄)を例にとると、2人は1年目、次のような出場成績を残している。

イチロー '92年 58試合出場、打率.366(238打数87安打)、本塁打3、打点16
中村紀洋 '92年 73試合出場、打率.233(253打数59安打)、本塁打6、打点25

 他の主な高校卒がどうだったかというと、萩原誠(阪神1位・167打数40安打)、萩原淳(オリックス2位・47打数6安打)、永池恭男(大洋2位・77打数15安打)、徳本政敬(広島2位・122打数23安打)、熊澤当緒流(西武3位・83打数18安打)でわかるように200打数からは程遠い。

【次ページ】 “未完の大器”にも最低限度の完成度が必要。

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