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軽量級から、スラッガーの指名へ!
強い広島の裏に、ドラフトの変化が。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byHideki Sugiyama
posted2014/05/23 11:00
5月20日時点で15本塁打、47打点(どちらも12球団トップ)と当たりまくっている広島・エルドレッド。不動の4番として、丸、キラと共に打線の中軸を担っている。交流戦でも爆発し続けるか。
“未完の大器”にも最低限度の完成度が必要。
自分たちのコーチングに絶対的な信頼を寄せるプロ関係者は、未完成でもプロで鍛えれば戦力になると思い込み、“未完の大器”タイプを指名しがちだが、重要なのは1年目にファームで200打数程度立てる完成度を持ち合わせていることである。
適度な完成度を持ち合わせた選手が1年目から試合に多く出場し、大学卒・社会人出身を上回る時間的猶予の中で大きく成長する。そういう可能性をイチローと中村の成績は見事に証明し、同じ意味で広島首脳陣が実践する堂林、鈴木に対する抜擢の姿勢にも好感が持てるのである。
FA制度が導入された'94年以降、川口和久('95年巨人)、江藤智('00年巨人)、金本知憲('03年阪神)、新井貴浩('08年阪神)、黒田博樹('08年ドジャース)、高橋建('09年ブルージェイズ)、大竹寛('14年巨人)がFA権を行使して他球団に移籍してきた。そのつどマスコミは私も含めて広島の不運を訴えたが、考えてみれば日本ハムや西武というパ・リーグ各球団のほうが多くFA移籍の洗礼を受け、それにもめげずそれに代わる人材を発掘・抜擢し、過去10年、交流戦や日本シリーズでセ・リーグを上回る成績を収めている。
広島は今年、主戦投手の大竹をFAで手放し、来年はエース・前田健太の海外移籍が有力視されている。「行かないでくれ」という声が大きく湧き上がりそうだが、今のカープファンは冷静に主力が退団していく事実を受け入れているように見える。
中心選手がいなくなればそれに代わる若手や中堅が輩出され、チームに清新な風を吹き込む。今年なら投手の一岡竜司(大竹の人的補償で巨人から移籍)や新人の大瀬良大地、九里亜蓮がチームの危機を救ってきた。強いチームはピンチをチャンスに変える力がある。その力を今年の広島からは強く感じることができる。