スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
急造投手と観客の喝采。
~イチロー初登板への期待の眼~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byKyodo News
posted2014/05/24 10:30
1996年球宴で登板したイチロー。メジャーでマウンドに立つ姿も見てみたいが果たして。
打者から投手に転向した例は限られている。
ベーブ・ルース、王貞治、イチロー、リック・アンキール……投手から打者に転向して成功した例はそう珍しくない。ただ、打者から投手に転向した例となると、数は限られる。たとえば、ボブ・レモンやバッキー・ウォルターズがしばらく三塁を守っていたことはあるし、トレヴァー・ホフマンがマイナー時代に遊撃手だったことも比較的知られている。さらには、豪打を誇ったジミー・フォックスが選手生活最後の年に投手として登板し、1勝0敗、防御率=1.59の成績を残した事実も、野球史の片隅には記されている。
フランコーアはもしかして、そういう数少ない例外のひとりになれるのだろうか。
結論からいうと、可能性はきわめて低い。4月20日から5月16日の間に、彼は5度登板して、4回と3分の1を投げた。最初の4試合は無失点で切り抜けたが、5試合目にはスリーラン・ホームランを浴びている。5試合通算でいうと、被安打=4、自責点=3、与四球=2、与死球=2、奪三振=4、防御率=6.23。140キロ台の速球に加えて、シンカーとスライダーを投げられるようだが、いまの力量では敗戦処理以上の役割を担うことはむずかしいと見られる。
'96年のオールスターでマウンドに登ったイチロー。
だが、フランコーアの姿を見て、野球ファンがざわめきはじめた。彼以外にも、マウンドに登れる野手がいるのではないか、というわけだ。
真っ先に名前が挙がったのは、ドジャースのヤシエル・プイグだ。問題児の側面はあっても、あの身体能力を考えれば当然の反応だろう。ダイヴィング・キャッチや走塁も凄いが、あの鉄砲肩なら相当の球速が期待できる。まあ、制球力には疑問が残るが。
期待の眼はイチローにも向けられる。彼が日本のオールスターゲームで投げたことは、アメリカでもよく知られている。
あれは'96年オールスターの9回表だった。打者松井秀喜を迎えたところで、パ・リーグの仰木彬監督がイチローをマウンドに登らせたのだ。が、セ・リーグの野村克也監督は、松井を下がらせ、代打に投手の高津臣吾を送った。イチローはウォームアップで時速145キロを記録し、高津を5球目でショートゴロに討ち取ってゲームを締めくくったのだった。