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野球界の重要テーマ“高卒1年目”。
松井裕樹で考える、金の卵の育て方。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNanae Suzuki
posted2014/05/07 11:35
並み居るプロを圧倒する一球を投げ込んだかと思うと、対応力に欠け時に脆さを見せる松井裕樹。大投手への道を順調に歩むためにも、今は我慢の時なのではないだろうか。
吉井理人が、語る高卒新人の育て方。
かつて、日本ハムのピッチングコーチを務めた吉井理人氏は、高卒1年目の起用法の難しさについての経験をこう語っている。
「高卒1年目の投手は、特に気をつかいました。自分がそうだったんですけど、高校野球を引退してから、プロに入るまでの期間はそれほど練習していないんです。その状態で投げても、上手くいかないんですよ。身体ができていないわけですから。
だから僕が二軍のコーチの時は、高卒投手はキャンプ中はブルペンに入れませんでした。身体を高校時代に戻してからということで、そうしました。それで4月くらいから投げ始めて、5月のGWの公式戦で使う計画をしていきました。中村勝や運天ジョン・クレイトンは、そうやって1年目の5月に公式戦で投げて、140km台後半を出したんです。
その時点については、上手くいった、成功したと思えましたね。ただ、その後彼らが伸び悩んでいる現状をみると、まだまだ考えないといけないとは思っています」
松井は、昨年9月に台湾で行なわれた18U世界選手権を日本代表の一員として戦っている。だから高校野球引退後も練習をしていた方だという見方はあるが、吉井氏が実践したように、それだけ選手の身体を慎重に気遣っても、高卒1年目の選手の起用については、デリケートに対応しすぎるということはないのである。
24、5歳まで我慢して身体づくりをする、という選択肢。
「入団1年目に勝ったものの、そのあと悩んでいる選手が多い」
そう指摘するのは、元ドジャースのスカウト・小島圭市氏である。日本のプロとアマの選手を、スカウトという立場でつぶさに見てきた小島氏は、身体が出来上がっていない選手を早期に起用することに警鐘を鳴らす。
「身体ができていないうちは、選手のパフォーマンスは上がらないんです。たとえばサッカー界などでは、フィジカルを重視した指導が広く行なわれてきた実績があります。野球はなおさら、ちゃんとした技術を身につければ、選手は長くプレーができる競技です。ピッチャーもバッターも、40歳までできるんです。だから、24、5歳までは我慢して身体づくりをさせるべきだと思います。
それが実現すれば、球団にとっても、選手にとってもプラスになるはずですから。それを実践できているのが、アメリカなんですよ。アメリカは、(選手としての土台ができるなどの)準備ができてからじゃないと選手をメジャーには送らないんです」