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野球界の重要テーマ“高卒1年目”。
松井裕樹で考える、金の卵の育て方。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNanae Suzuki
posted2014/05/07 11:35
並み居るプロを圧倒する一球を投げ込んだかと思うと、対応力に欠け時に脆さを見せる松井裕樹。大投手への道を順調に歩むためにも、今は我慢の時なのではないだろうか。
「早く見る」ことと「長く見る」ことはどちらが大事?
選手の育成についての考え方は、野球界がこれからも検討していくべき課題の一つといえるだろう。
これまでに高卒1年目から活躍した投手のなかには、ダルビッシュ有、田中将大ら突出した選手たちがいる。だから彼らに倣って、素材のいい選手は1年目からであっても使いながら育てていきたい、というのは理解できる。またファン心理としても、知名度のある選手ほど一日でも早く見たいという心情は、分からなくはない。
しかし、選手を「早い時期に見る」ことより、小島氏の指摘のように「長く見る」ことの方が、球団もファンも、そして選手にとってもきっとプラスになるのではないか。野球界にとっても、伸び悩む若手の数が少なければ、より一層盛り上がるはずだ。
また、高卒1年目の投手に限って言えば、彼らの起用は「大抜擢」ではないということもいえる。
考えなければいけないのは、毎年ドラフトを行なっているのに、なぜ高卒1年目投手に早々から頼らなければいけないのか、ということである。高卒1年目の投手を起用するということは、それだけ、チームのスカウティングと育成が上手くいっていないことの裏返しでもあるということを理解しなければならない。
松井が一軍で投げるのは「今」なのだろうか。
2012年、楽天はルーキーの釜田佳直を5月から抜擢している。釜田はその起用に応える活躍で20試合に登板し、シーズン7勝を挙げ、新人王争いを繰り広げた。しかし、2年目の昨年は開幕一軍に入ったものの、5月に疲労骨折で離脱。登板は8試合にとどまった。そして、昨年の11月と今年の3月に二度の手術。今季中の復帰は、絶望的といわれている。
華々しくデビューを飾った陰で、高校野球のスター選手だった彼は、20歳にして二度も右ひじにメスを入れるという苦境に立たされている。
5日のイースタンでの松井の登板を見る限り、彼のポテンシャルの高さは間違いない。
しかし同時に思ったのは、彼が一軍で投げるのは「今」じゃないということだ。
結果がシビアに要求される一軍よりも、テーマを掲げて登板ができる、あるいは、課題克服のためのトレーニングをじっくり積み重ねることができる二軍での生活が、最終的には彼を大投手へといざなうはずだ。
高卒投手の起用法の難しさは、野球界にとって完璧な解決が難しいテーマであるだろう。今回は楽天を取り上げたが、これは、どの球団もぶつかる課題だと思う。今後も、取材を続けていきたい。