Jをめぐる冒険BACK NUMBER
さらなる進化を目指すゆえの苦境。
柿谷曜一朗が挑む困難なミッション。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byShigeki Yamamoto
posted2014/04/23 12:00
セレッソの8番を背負い、ACLとの過密日程を戦う柿谷曜一朗。昨年は代表の1トップとしても存在感を示しW杯メンバーへの選出も濃厚と見られているが、本人はセレッソへの最大の愛情を隠さない。
今季の柿谷が背負う、ゴールだけではない役割。
昨シーズンまでのセレッソは、端的に言えば、前線のタレントの力をシンプルに生かそうとする攻撃が多かった。
敵陣のスペースがDFに消される前にボールを預け、彼らが勝負しやすい状況を作り出す。その最も分かりやすい例が、ディフェンスラインの裏に抜け出した柿谷にボールを送り込む形。これが昨季までの「ゴールの黄金パターン」だった。
一方、ポポヴィッチ監督が志向するスタイルは、ハイテンポなパスワークで相手を揺さぶり、縦パスを打ち込んでからコンビネーションで崩すパスサッカーだ。そこには「選手みんながボールに触り、サッカーを楽しみ、自らアクションを起こすことで成長するものだ」という揺るぎない信念がある。
前任のクルピ監督もポポヴィッチ監督も、攻撃サッカーを標榜しているが、同じ「攻撃的」でも、内容はずいぶん異なる。
こうした戦術の変化にともなって、柿谷に求められる役割も変わってきている。昨シーズンはゴールに近いところにいて、クルピ監督から「とにかく数字を残すこと」を求められていた。ところが今シーズンのポジションは、最前線というわけではない。
実は「見た目と違ってすごく気を遣うタイプ」。
FC東京戦の柿谷のポジションは、2トップのようでいて1トップでもあり、トップ下のようでもあった。曖昧に見えたのは、パートナーのフォルランの動きに合わせているからだろう。フォルランが前線に張れば後方からサポートし、フォルランが下がればその視野に入るようなポジションを取ろうとしていた。
それだけではない。サイドにも頻繁に流れ、南野拓実や杉本健勇に得意な中央でのプレーを促したかと思えば、ボランチの近くまで寄って行き、攻撃の組み立てを助けたりもする。FC東京がGKのキックからカウンターを繰り出したときには、いち早く自陣に戻って守備をする姿も見られた。
そうしたプレーを見ていて思い出したのが、今年3月13日発売のNumberに掲載されたインタビューだ。
「見た目と違ってすごく気を遣うタイプ?」と訊ねられた彼は、こう答えていた。
「だと思います、多分。まあ、見た目だけやったら、人のことを気にせずタイプ、でしょうね、こんな顔というか、頭して(笑)」
このやり取りはピッチの外での話だったが、ピッチの中でも柿谷はすごく気を遣っているのだ。だがそれは、「フォルランに遠慮している」といったネガティブな話ではなく、チームをうまく回すために、ポポヴィッチ監督の目指すスタイルを体現するために何が最善の策なのか、常に気を張り巡らせているという意味だ。