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長尺パターは「アートじゃない」?
ルール変更に惑う者、備える者。 

text by

桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2014/01/22 10:45

長尺パターは「アートじゃない」?ルール変更に惑う者、備える者。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

長尺パターを愛用している吉田弓美子。長尺パターをグリーン上で見られるのも、あと2年だ。

議論の流れを決めた、タイガー・ウッズの一言。

 大江の言うとおり、賛成派と反対派の間でこの議論が過熱したのは、アンカーリングとスコアに、理論的な因果関係が最後まで見つからなかったことだ。だが、論争の最中の「アンカーリングはアート(芸術的)じゃない」という、タイガー・ウッズのひとことが強烈で、流れは一気に禁止へと傾いたともいわれている。「タイガーがダメって言ったら、ダメなんでしょうね……」と大江。つぶらな瞳で、寂しそうに言ったわずかな皮肉が、精一杯の抵抗だ。

 彼女も昨年11月から通常のパターにスイッチした。

「短いパターを打つようになってからも、なんとかプレーできています。それがダメならゴルフをやめる気でした。なぜ? だって、もう無理なんで」

 ルール規制が、プロゴルファーとしての生活そのものを脅かす。彼女のように死活問題になった選手が実際にいるのである。

アンカーは「心の支え」。その代わりを見つける必要がある。

 では実際、アンカーリングが生む具体的な効果とは、いったい何だろう。

「パターの動きなんてさ、本当はコレだけなんだよ」

 ボールを下からトスする動きを見せながら、そう語るのが片山晋呉である。片山は近年、ストロークを安定させる目的で中尺パターを握りながら、新ルールに抵触しない打ち方を編み出してきた。その上で言う。

「(アンカーリングすることは)入る、入らないとは違う。ただ、体に固定できることで、気持ちが楽になるんだ」

 パッティングは簡単な動きだからこそ、頭の中の情報量が増えすぎると、いつの間にか体の動きを縛り付けてしまう。アンカーリングで作られる支点は、迷いを断ち切る心の支えといえる。

 彼女たちはいま、それの代わりになるものを掴むのに必死だ。

 吉田は昨季終盤、スタート前には長尺パターで練習を続け、ティオフの15分前に試合で使う短いパターにスイッチするルーティンを考案した。'14年シーズンも目先の成績と、2年後を見据えて長尺と短尺を並行して使用する予定だ。今オフの一番の課題は「やっぱりパターですね」と言う。そして大江もこの冬、短いパターに中尺用の長いグリップを挿した特別モデルを握って試行錯誤している。

 彼女たちの不安は、大多数の人々には想像しがたい。けれどこの荒波を乗り切った時は、誰も手にできない自信が芽生えるはずだ。

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