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長尺パターは「アートじゃない」?
ルール変更に惑う者、備える者。 

text by

桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2014/01/22 10:45

長尺パターは「アートじゃない」?ルール変更に惑う者、備える者。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

長尺パターを愛用している吉田弓美子。長尺パターをグリーン上で見られるのも、あと2年だ。

「短いパターだといろいろ考えてしまいますね」

 アンカーリング規制の話題が過熱したのは、その年の半ばである。当時の吉田の受け止め方は「ああ、そうなんだ」といった、少しばかり軽いものだった。ところが昨年は結果的に賞金ランキングで自己最高の5位に入ったものの、ジレンマを抱えていた。

「開幕して春先には短いパターをバッグに入れていたんですよ。でも成績がなかなか出ない時、試しに長尺を使った試合で急にトップ10に入ってしまって……。『ああ、私はやっぱり長尺なのかなあ』って思っちゃいますよね」

 その後は長尺パターを使い続け、夏には9試合で3勝する破竹の勢いを見せた。

 だが11月のミズノクラシックからシーズン終盤4試合で、吉田は再度短いパターにトライする。だが、伊藤園レディスでは横峯さくらに届かず2位でホールアウト。「緊張する場面でパンチが入った」。優勝争いの最中、思った以上に強い力でインパクトを打つミスを犯した。

「短いパターだといろいろ考えてしまいますね……リズムが変わってしまいました」

 吉田自身「ショットに関しては私、自信があって。チャンスに付けられる機会は他の選手よりも少しある」という思いがある。だから長尺なら、いやアンカーリングすれば、勝てる。結果を振り返れば、シーズンを通じてそんな思いが強くなるのも無理はない。

イップスが原因で長尺パターを手にする者も。

 もうひとつ長尺パターを使う理由で多いのが、精神的な問題によるもの、いわゆるイップスである。

 現在23歳の大江香織が異変を感じたのは、東北高3年生時の夏だった。

「打つ前に手が震えすぎて、フェース面が全く合わないんです。ボールが左右、どっちにも行きました。1メートルのパットが、1カップ以上も右に出たり……」

 ボールをフェースの芯で捉えられない、みすぼらしいインパクトの音を、大江は「“ペンッ”て感じ」と表現した。「練習だと普通に打てるのに、本番で真っ直ぐ打てなくなった。『これはもうダメだ。私、無理だな』って思いました」

 その後、藁にもすがる思いで手にしたのが長尺パター。独学で習得した打ち方で、順調にプロとしてのキャリアを歩み、'12年4月にフジサンケイレディスで初勝利を挙げた。

 しかし中尺、そして通常サイズにもトライした昨シーズンは未勝利に終わってしまう。「長尺だからといって、簡単だというわけじゃないんです。その分、すごく練習した。だから正直言って、禁止にする必要あるのかなあって思いました」と、費やした時間と労力を振り返った。

【次ページ】 議論の流れを決めた、タイガー・ウッズの一言。

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