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村上と鈴木の抱擁、織田の激励……。
ライバルというより、チームとして。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byAsami Enomoto

posted2013/12/29 08:01

村上と鈴木の抱擁、織田の激励……。ライバルというより、チームとして。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

ジャンプの転倒で手から流血しながらも、全力で演じきった高橋大輔。ソチ五輪代表選考会では、満場一致での選出となった。

「相手がどうだからと意識しているうちはまだまだ駄目」

 シンクロナイズドスイミングで日本、中国のヘッドコーチとして数々のメダルをもたらした井村雅代氏がこう語ったことがある。

「直接相手と争うわけじゃないんだから、いかに自分の力を出し切るかが大事なんです。相手がどうだからと意識しているうちはまだまだ駄目なんです。……とことんやり尽くしたときって、相手の人を称えられるものなんです。私も、アテネ五輪のときは本当にやれるかぎりやって、選手も本当に頑張った。結果は目標の金メダルじゃなくて銀メダルでしたが、そのとき、優勝したロシアのコーチに対して、すごいなあ、と自然と思えて祝福することができた。スポーツって、そういうものなんです」

 シドニー五輪からの4年、全力を尽くしてアテネに挑んだ。その結果だからこそ、相手を称えられるのだと井村氏は言った。

 今大会に限らず、フィギュアスケートの選手たちが見せてきた姿も、おそらくは同じことなのではないか。

 誰もがやれる限りのことをやってきた。自分の可能性を信じ、高みを目指し、自分を伸ばすことに努めてきた。そうした努力や苦闘のさまを互いに知るからこそ、競い合うことと称えることの両立ができる。きっとそこには、お互いに抱く敬意がある。

鈴木明子が語った「仲間」たちとの切磋琢磨。

 いみじくも鈴木は、ソチ五輪へ向けて突き進んできたモチベーションのありようをこう説明した。

「ここ何年か、私が出場できなかった世界選手権もありましたが、浅田選手、村上選手と一緒に大会に出てきて、男子も6人が頑張ってきました。みんながチームとして切磋琢磨しているのを見て、自分は見守っているだけでいいのか、ここで身を引いたら後悔すると思いました」

 4年に一度、オリンピックの代表選考の対象である全日本選手権だからこそ、選手たちの光景がよけいに心に残る。

 特別な大会であるだけに、重圧はそれぞれに大きかっただろう。ましてや、今の日本のフィギュアスケート界を考えればなおさらだ。男子を例にとれば、今シーズン、日本男子は、アメリカ、ロシアで町田樹が優勝し、NHK杯では高橋が優勝。カナダ、フランスでは羽生結弦が2位となり、織田はカナダで3位、NHK杯2位、小塚も中国で3位。

 ファイナルも含めて7大会すべてで日本の選手が必ず表彰台に上がり、優勝は4回を数える。層の厚さも考えれば、まぎれもなく世界トップの位置にある。互いを高めあい、引っ張りあげ、日本の地位を押し上げた担い手たちが一堂に会する唯一の大会が、全日本選手権であったのだ。

【次ページ】 彼らは、選ばれなかった選手の思いを背負って滑る。

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