REVERSE ANGLEBACK NUMBER
「日大ってこんな感じだったっけ」
甲子園ボウルに思う、伝統と現代性。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byKYODO
posted2013/12/20 10:30
パスを阻まれる日大の1年生QB高橋遼平。京都市生まれだけに甲子園ボウルには思い入れがあったが仕事をさせてもらえず。関東大学リーグ戦MVPの力を発揮することはできなかった。
今年の甲子園ボウルは日大のQB高橋遼平がどんなプレーをするか楽しみだった。高橋は1年生である。日大といえば、パスオフェンスがお家芸だ。さすがに最近はショットガンフォーメーションを前面に押し立ててパスを投げまくるかつてのようなスタイルはだいぶ影を潜めたが、それでも攻撃の中心がパスであることは間違いない。その伝統のパスオフェンスを1年生QBがどの程度体現してくれるか。
高橋は身長168cmとQBとしては小柄で、肩も突出した強さは持っていない。だが、小さいころからQBをしていたこともあり、正確なコントロールと俊敏な動きで体格のハンデを跳ね返してきた。日大のような伝統校、しかもパスに特徴のある学校が1年生をQBに据えるのは珍しい。それだけ期待もされ、能力も評価されているのだろう。
もう20年以上も甲子園ボウルの優勝から遠ざかっている日大と2年連続優勝している関学の対戦である。ここが目標の日大と、社会人を破ってライスボウルで優勝するのが目標という関学とでは、やや力に差があるというのが大方の評価で、それだけに一層高橋の奮闘に対する期待が大きかった。
日大の最初のオフェンスで、高橋にサックを決めた関学。
しかし、期待は日大の最初のオフェンスでしぼんでしまった。パスを選択した日大に対して、関学のDLがラッシュをかけてQBの高橋をサックしてしまったのだ。いきなり落馬したようなもので、高橋の受けた衝撃はそうとうなものだったろう。
高橋を守る日大のOLの中心はキャプテンの岩井悠樹だった。その岩井の対面が関学のキャプテンの池永健人。池永は岩井をうまくかわして高橋に襲いかかりサックを決めた。自分のミスでサックされたのならともかく、もっとも信頼していた主将の岩井が守りきれずにサックにつながったことは、高橋の衝撃を一層大きくしたのではなかったか。
この最初のプレーが結局試合の帰趨を決定づけた。高橋はその後もパスをほとんど失敗して、日大は全く攻撃の主導権を握ることができなかった。高橋のパスの獲得ヤーデージは79ヤードにとどまった。関学がパスで281ヤードを獲得したのに比べると、気の毒なほどの成績である。
だが、大差がついても不思議のない試合は、意外なほど僅差で展開した。第3クォーターを終って13対3。第4クォーターだけで十分にひっくり返すことが可能な点差だった。第4クォーターは互いに点を取り合い、結局最終スコアは23対9で関学の勝利となったが、一方的な試合内容と得点差の小ささが対照的で、受け止め方に戸惑うような試合だった。