プロ野球亭日乗BACK NUMBER
複数球団との交渉は可能だが……。
新ポスティング制度、“負”の側面。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/12/20 10:30
新ポスティング制度の日米合意により、メジャー挑戦に道が開けた楽天・田中将大。入札上限額の2000万ドル(約20億円)は適正な額と言えるのだろうか。
球団イメージも絡み、金銭だけの問題ではない。
ファンの間では今オフのメジャー移籍というムードが熟成されてしまっている田中の場合は、そこに球団イメージという要素が入るので、一概に金銭だけの問題で片付けられない部分はある。
「新制度については疑問点があるので機構に問い合わせている」
それでも17日に田中との直接会談を終えた楽天・立花陽三球団社長がこう結論を保留したのも、根本には以前の制度との移籍金のあまりの格差があったからである。
「譲渡金は球団経営の一時的な利益に過ぎず、上限が2000万ドルならば、選手を出さないという判断も増えるだろう」
こう指摘したのは広島の松田元オーナーだ。
実際にこれからは新しい制度のもとで移籍を認めるかどうかを判断するとき、権利を持つ球団側は必ず移籍金の上限額と残した場合の利益判断をすることになる。その結果、ギリギリまで移籍を認めずに8年目のシーズンが終わった後にようやくポスティングをさせるという経営判断が主流になるのは必然ではないだろうか。
新制度の本当の意味を知ったら、何とも納得できない……。
結局、この新制度は1年でも早いメジャー移籍を目指す選手にとっては、逆にギリギリまで移籍が認められない可能性を孕んだ負の制度となってしまったわけである。
選手会がこうした事実を的確に判断できずに、複数球団と交渉できることのみに「嬉しい」などとコメントするノンキさにも呆れる。
あえて言えば、当初の入札1位球団と2位球団の中間を入札額とするという案(これなら論理的に上限はない)を自分たちの判断ミスで破棄されてしまったことで、この新制度を「いい制度」と言わざるを得ないのではないか。そのために正確な判断を選手に伝えられていないのではないか、という疑義すら感じる。
その結果、新制度で近い将来のメジャー移籍を望む前田が「選手にとっていい制度」と素直に喜んでいる姿を見ると……。
新制度の本当の意味を知ったら、何とも納得できないのは筆者だけだろうか……。