プロ野球亭日乗BACK NUMBER
複数球団との交渉は可能だが……。
新ポスティング制度、“負”の側面。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/12/20 10:30
新ポスティング制度の日米合意により、メジャー挑戦に道が開けた楽天・田中将大。入札上限額の2000万ドル(約20億円)は適正な額と言えるのだろうか。
“売りどき”に高額で移籍する可能性はなくなった。
ところが球団が移籍を認める上で、新しい制度は大きな障壁を抱えるものとなった。それはもちろん、移籍金の上限を2000万ドルに設定してしまったことである。
実は移籍金の上限がなかった以前までの制度では、選手の“売りどき”というのが確かにあった。
例えば今回の新制度発効で注目の的となっている楽天・田中将大投手はFAの権利を取得するのは2年後の15年のシーズン中で、まだ2年間の期間がある。しかし、もし移籍金に上限がなければ、今オフは最大の“売りどき”であったはずなのだ。
投手としての実力はもちろん折り紙付きだが、今季はシーズンで不敗の24連勝をマークして、これ以上ない成績(実績)を残した。しかもこのオフのMLBの移籍市場は、投手不足という需要と供給のバランスも田中に有利に働いていた。
だから米メディアの報道も加熱し、移籍金だけで1億ドル(約100億円)を越える可能性もあるのではないか、という憶測記事が飛び交う事態を引き起こしたわけである。
田中の移籍金の目安は、松坂、ダルビッシュの移籍金。
1億ドルというのはいささかオーバーな感じはするが、楽天にとってみれば基準になる金額はある。2006年オフに旧制度で西武からボストン・レッドソックスに移籍した松坂大輔投手の移籍金約5111万ドル(当時の換算レートで約60億1000万円)と'11年オフに日本ハムからテキサス・レンジャーズに同約5170万ドル(同約40億円)で移籍したダルビッシュ有投手の例である。
今年の田中の実績は少なくとも数字的には松坂、ダルビッシュを上回っており、過去の例から彼らに匹敵するポスティングフィーが、田中の適正額と考えられていたわけだ。
ところが結果的に、楽天が手に出来る金額は“わずか”2000万ドルでしかない。しかもこの新制度では、ある程度の力があれば、どのシーズンに移籍を認めても移籍金は同じ額なのである。“売りどき”がないのだから、チームとしては目一杯まで選手を引き留めて、FAの権利を取得する前年に移籍を認めるという考えが当然出てくる。