Jをめぐる冒険BACK NUMBER
ナビスコ決勝は浦和有利の下馬評も、
策士ネルシーニョに“奇策”の気配。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byAFLO
posted2013/11/01 10:30
天皇杯を優勝、今年のACLでも日本勢最高のベスト4とトーナメントでの戦いに強さを見せるネルシーニョ。ナビスコ決勝にも、奇策を用意しているのだろうか。
この人の言うことをどこまで信じていいものか。柏レイソルを率いる智将、ネルシーニョ監督のことである。
相手の長所を消し去る一手に冴えを見せ、これまで何度も選手起用や采配で相手の裏をかいてきた前例があるだけに、言葉を額面どおり受け取っていいものか、判断に困らされる。どうも騙されている気がしてならないのだ。
11月2日のナビスコカップ決勝を戦う浦和レッズと柏は、10月27日のJ1第30節で奇しくも顔を合わせることになった。
前哨戦は2-1で浦和の勝利。浦和の得点は前半5分と11分に、いずれも左サイドで槙野智章が起点になって、柏木陽介が決めたもの。
先制点のシーンでは、槙野のパスを受けた原口元気が強烈なミドルを放ち、GKが弾いたところを柏木が頭で押し込んだ。2点目は槙野のグラウンダーのクロスを柏木が蹴り込んだ。トラップしてから左足を振り抜く素早さが鮮やかだった。
どちらの場面も柏木にはマークが付いていない。浦和と同じ3-4-2-1の布陣を採用し、マークを明確にして臨んだ柏にとって、痛恨の失点だった。「この反省を次(決勝)に生かさなければ」と工藤壮人は語ったが、「これが前哨戦でよかった」という本音が聞こえてくるようでもあった。
試合後の会見で、3バックの解説をしたネルシーニョ。
「あの2失点で目が覚めた」(ネルシーニョ監督)という柏の反撃は素早かった。その3分後、浦和の最終ラインから出たパスをカットして大谷秀和が持ち込み、工藤が確実に決めて1点差に詰め寄る。
その後は柏の攻撃の機会のほうがやや多かっただろうか。だが、リードを持った浦和の「そのまま終わらせる」力に、優勝争いをするチームの充実ぶりがうかがえた。
ネルシーニョ監督が、今3バックを採用している理由と、そのメカニズムについて明かしたのは、試合後のことだった。
「3バックは時間をかけて準備したのか」という質問を受け、指揮官は説明を始めた。
「キャンプのときから機を見て選手たちと話し合い、準備を進めてきた。特に天皇杯からの3試合(10月16日ファジアーノ岡山戦、19日ヴァンフォーレ甲府戦、27日浦和戦)は、毎日すり合わせながらやってきた。
私の考えでは、このシステムの3バックのうち一人は、足元の技術がしっかりしていて攻撃で貢献できなければならない。今日は(鈴木)大輔がその役割を担ったが、大谷もラインに入って、逆サイドで同じような役割を担った。それからウイングバックの二人もアグレッシブに勝負を仕掛け、守備でも負けてはならない。選手たちはポジションごとに理解を深めているし、このシステムを採用するときは失点も比較的少ない。今後も浦和(ナビスコ決勝)、広島(J1第31節)、大分(天皇杯)と3バックのチームとの対戦が続くから、それを睨んでやっていきたい」