プレミアリーグの時間BACK NUMBER
プレミア、CL共に首位のアーセナル。
“スーパー・クオリティ”エジルの力。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byPress Association/AFLO
posted2013/10/03 11:35
加入1カ月にしてチームから絶大な信頼感を獲得し、攻撃の中心となったエジル。アーセナルに9年ぶりのタイトルをもたらすことはできるのか。
課題の守備と決定力は、強豪相手でこそ試される。
中央にラムジーとウィルシャー、その前方にエジルが入るアーセナルは、トランジションで迅速かつ的確にパスを繋げるMFが揃っていることから、速攻カウンターの切れ味が、近年の中では圧倒的に鋭い。これは、いざとなれば、ラインを下げてリードを守る戦い方も可能であることを意味する。先のナポリ戦は、前半は攻めの姿勢、後半は守りの姿勢で強敵を封じたのだ。
もちろん、完璧ではあり得ない。課題とされて久しい守備面では、ローラン・コシェルニーとペア・メルテザッカーの正CBコンビだけではなく、GKのボイチェフ・シュチェスニにも、簡単に体を投げる癖がある。
開幕2カ月間のプレミアでは、第3節トッテナム戦(1-0)が唯一の強豪対決だったが、11月上旬からリバプール、マンUなどとの強豪対決が増え始めると、後方のパニックが目立ち始める可能性はある。
最前線も、ジルー頼みは心許ない。
2年目の今季は、CL予選を含めれば開幕から3試合連続ゴールでスタートし、昨季の計17得点への上乗せが期待できるものの、そもそも新FWが必要と言われた決定力の程は、やはり疑問だ。そのジルーが怪我でもしようものなら、プレミアを知る1トップの本職は、過去2年間は戦力外だったニクラス・ベントナーしかいない。
「彼のプレーに興奮しないようではサッカーファンではない」
もっとも、10月を迎えた時点では、2列目の故障者続出にもかかわらず、国内外でトップを走っている。若いラムジーやウィルシャーの口からも、「優勝」という言葉が出ている。チームの勢いと自信は、開幕当初とは天地の差だ。
思えば、プレシーズン中のエミレーツカップで、前半に2点をリードされ、ホームの観衆からブーイングを浴びてハーフタイムを迎えた試合の相手はナポリだった。それが、ホームでのCL戦で、同じ相手から2点のリードを奪って前半を終え、ハーフタイムに観衆の拍手喝采を浴びた。
変身の立役者であるエジルを、笑顔のベンゲルは「彼のプレーに興奮しないようではサッカーファンではない」と讃えた。それはまるで「現在のアーセナルのパフォーマンスに興奮しないようでは、サッカーファンではない」と言っているようにも聞こえた。
それほど、トンネルを抜けたベンゲル一行は魅力的なのだ。