プレミアリーグの時間BACK NUMBER
プレミア、CL共に首位のアーセナル。
“スーパー・クオリティ”エジルの力。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byPress Association/AFLO
posted2013/10/03 11:35
加入1カ月にしてチームから絶大な信頼感を獲得し、攻撃の中心となったエジル。アーセナルに9年ぶりのタイトルをもたらすことはできるのか。
早くもチームメイトとの信頼感溢れる連係プレーが。
そして、ベンゲルが「スーパー・クオリティ」と評する新プレーメーカーは、初体験のプレミアでも、さすがの滑り出しを見せた。
第4節サンダーランド戦(3-1)でのデビューで、初アシストを記録するまでに必要とした時間は僅か10分。翌週のストーク戦(3-1)でも、2アシストを含め、チームの全得点に絡んでみせた。
当然だが、すでにチームメイトからの信頼を得ていることも明らかだ。好例はナポリ戦での1ゴール1アシスト。
移籍後の初ゴールはアーロン・ラムジーのアシストによるものだが、ラムジーがタッチライン際でボールを持った時点では、逆サイドのエジルとの間に40m以上の距離があった。手を挙げてボールを要求していたわけでもない。
しかし、右サイドを上がったラムジーは、「エジルなら」と確信していたかのように、スピードの乗ったクロスを放ち、当たり前のようにボールの到達点にいたエジルがボレーを決めた。その7分後には、偶然にボールがエジルに渡っただけで、「チャンス到来」を予期して動き出したオリビエ・ジルーの足下に、右サイドから切り込んだエジルのラストパスが届いた。
ラムジーが覚醒し、エジルを強力にサポート。
絶対的な新トップ下の存在は、当人を凌ぐ活躍を見せるラムジーの覚醒にも寄与している。
22歳のMFは、今季のプレミア序盤戦で最も乗っている選手。イングランドでは「ボックス・トゥー・ボックス(自陣ペナルティエリアから相手ペナルティエリアまでの意)」と言われるが、攻守にダイナミックに貢献するセンターハーフとして、リーグ戦6試合で4ゴール2アシストを記録している。
昨季までのラムジーは、チーム事情に応じて、トップ下やアウトサイドで使われた。器用さと献身的な姿勢を買われたわけだが、3年前の右足骨折で、一軍キャリアが振り出しに戻っていた若者の自信回復には、好ましい状況ではなかった。懸命になればなるほど、ロストボールが増え、サポーターからも批判される試合が少なくなかった。
ところが今季はエジルの加入で故障さえなければ、サンティ・カソルラとトマシュ・ロシツキーが、トップ下からアウトサイドに回る機会が増えることとなった。両サイドの主力には、ルーカス・ポドルスキ、セオ・ウォルコット、アレックス・オクスレイド・チェンバレンらもいる。その上、中央では、度重なる怪我を克服したジャック・ウィルシャーとコンビを組める。ベテランのミケル・アルテタと組む場合とは違い、ウィルシャーが上がり気味になることから、ラムジーは、機を見て中盤の最深部から攻め上がる持ち味を発揮しやすい。
本来のポジションとプレーに注力できる精神面の余裕が、左足で絶好のラストパスを通し、右足で冷静にシュートを叩き込んだ、スウォンジー戦での1ゴール1アシストから窺える自信につながっている。