プレミアリーグの時間BACK NUMBER
プレミア、CL共に首位のアーセナル。
“スーパー・クオリティ”エジルの力。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byPress Association/AFLO
posted2013/10/03 11:35
加入1カ月にしてチームから絶大な信頼感を獲得し、攻撃の中心となったエジル。アーセナルに9年ぶりのタイトルをもたらすことはできるのか。
10月1日のナポリ戦を終え、TVインタビューに応じるアーセン・ベンゲル監督の顔は笑っていた。納得の心境が窺える自然な笑顔だった。ここ数シーズン、サポーターの非難が毎試合つきまとっていたアーセナルの指揮官にすれば、ほぼ完璧な就任18年目のスタートだ。
CLグループステージ第2節、ホームでナポリを2-0で下したアーセナルは、苦戦が予想されたCLグループFで、2位に3ポイント差の首位に立った。無傷の2戦2勝は、グループ内でアーセナルのみ。グループステージ突破は、アーセナルにとって珍しいことではないが、試合前の会見でCL初優勝への「こだわり」を認めたベンゲルにすれば、1位通過を狙えるに越した事はない。昨季は、グループ2位に終わった結果、決勝トーナメント1回戦で、最終的に王者となるバイエルンと当たる不運を招いた。
ナポリ戦前日の9月30日、ベンゲルは、アーセナルでの満17周年をプレミアリーグ首位で迎えていた。チームは、28日の第6節スウォンジー戦(2-1)で、リーグ戦での連勝を「5」に伸ばして単独首位に。同節では、地元ライバルのトッテナムがチェルシーと引分け、マンチェスターの両軍は敗れている。優勝候補と言われる昨季トップ5の中では、アーセナルだけが勝利を収めている。
崖っぷちのベンゲルを救ったエジルの加入。
就任17年目であった昨シーズンの終盤は、ベンゲルにとって暗いトンネルだった。
最終節で辛うじてCL出場権を確保して喜ぶ姿を、メディアと一部のファンの間で、「4位で満足な証拠」と叩かれた。今夏の移籍市場では、「最優先」と公言していた新FWの獲得ターゲットを逃し続けた。そして今季開幕戦では、アストン・ビラにまさかの敗戦(1-3)。来夏で契約が満了するベテラン監督には、ファンの間で「続投はクラブのためにならない」との意見が強まった。だからこそ余計に、国内外で首位に立ったベンゲルの笑顔は、トンネルの出口に差し込む光のように眩しかった。
この状況好転には、言うまでもなく、移籍市場最終日に実現したメスト・エジルの加入が影響している。
クラブ史上最高の移籍金で獲得したドイツ代表MFは、無冠に終止符を打つクラブの意思表示として、若手の多いチーム、そして幻滅し始めていたファンに、今後への自信と希望を与えるワールドクラスだ。メディアでも、1995年のデニス・ベルカンプ獲得と比較されていると言えば、期待の大きさが分かるだろう。