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知将トゥヘルはマインツの太陽だ。
岡崎慎司が感銘を受けた手腕を追う。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byBongarts/Getty Images
posted2013/09/05 10:30
トゥヘル(左から2番目)は岡崎を「本物のFWだと思う」と評価。昨シーズン終了後、チーム得点王のアダム・シャライがシャルケに移籍したこともあり、岡崎に対する期待は大きい。
マガトが北風とすれば、トゥヘルは太陽。
「監督がいきなり何かをかかげるのではなくて、みんなで話し合って、決めていくというような空気を作るから、みんなが真剣に考えるんですよ。監督もすごく熱く話しますからね。こういうのって、誰かがダルそうな雰囲気を出しちゃうものじゃないですか? でも、そんな雰囲気は出ない。僕らは言うたら2部から上がってきたようなチームで、そういうチームが勝たなきゃいけない。じゃあ何をしようかというところで、すごく上手くやっているなぁと思います」
そう証言するのは、今シーズンからマインツに加入した岡崎慎司だ。
このように対話を重視しているからこそ、監督は選手に信頼されているのだという。例えば、トゥヘルは試合中や練習中などに鬼気迫る表情で選手を怒鳴りつけるシーンがしばしば見られる。ただ、その際に監督が出す指示は、信頼関係があるからこそ、選手たちもすんなりと受け入れるのだ。岡崎はこう話している。
「監督は怒るんですけど、みんなのとらえ方が他の監督の場合とは違うと思うんですよ、たぶん。選手たちは『うるせぇー!』みたいな感じじゃなくて、愛情があると感じているというか……信頼感があるから、『また言われたなぁ』みたいな感じで受け取れる」
旧来のドイツ人指揮官の中には、権威を振りかざして選手たちに言うことをきかせるタイプも少なくなかった。例えば、かつてヴォルフスブルクを率いてリーグ優勝を果たしたマガト監督などは、そうしたタイプだ。そんなマガトが北風とすれば、トゥヘルは太陽。だからこそ、選手たちは監督を信頼してともに戦おうと考え、一体になれるのだ。
同じ材質で、ソフトボール大のボール。
2つ目の魅力は、豊富な練習メニューだ。さまざまなメニューを使って、毎日の練習へのモチベーションを高めていく。
8月29日、マインツの練習場を訪れると、奇妙な光景を目にした。ピッチの上で繰り広げられているのは、一見、普通のパス練習だった。しかしながら、ボールの大きさが違う。ソフトボール大の大きさで、実際に試合で使うものと同じ材質を使ったボールでパス交換をするのだ。ともすれば、“こなすだけ”になりがちなパス練習でも、ボールが小さいために選手たちは気を抜かずに蹴らないといけなくなる。
チームに加わって、すでに1カ月半がたとうとしていた岡崎は、笑顔を浮かべてこう語っていた。
「毎週違う練習をやっているんです。同じメニューだったことは一度もないんですよ、これまでのところ。楽しいッス。だからこそ、感覚でサッカーをやれるようになったらイイなと思えるんですよ。それが出来れば楽しい。考えてからやるのでは遅いんですよね」